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映画感想文【探偵マーロウ】

2022年 製作
出演:リーアム・ニーソン、ダイアン・クルーガー

<あらすじ>
1939年、ロサンゼルス。私立探偵を営むマーロウのもとに魅惑的なブロンドの美女が一人訪れる。彼女の依頼は、姿を消した元愛人の捜索。
依頼を引き受け元愛人の足取りを追うマーロウだが、調べを進めるうち、知らず背景にある闇に巻き込まれていく。


ハードボイルド小説の代名詞、フィリップ・マーロウである。
その名前は良く聞いていたが、実のところレイモンド・チャンドラーの原作は例によって海外小説への苦手意識から読んだことがなかった。
しかしながら、フィリップ・マーロウである(二回目)
ハードボイルド小説好きとしてはこの機会に一度読んでから映画に臨もうと思っていたのだが、今回の原作はレイモンド・チャンドラー自作ではなく、別人による続編『黒い瞳のブロンド』(2014年、ベンジャミン・ブラック著)なのだそう。チャンドラー本人は1959年に死去しており、遺族公認の続編という立ち位置にあるらしい。
著者であるベンジャミン・ブラックとは、ジョン・バンヴィルという作家の別名義であり、彼はイギリスの権威ある文学賞、ブッカー賞の受賞者でもある。そんな力のある作家の書いた続編であるならば、チャンドラーの手によるものとそう大きな乖離はあるまい。しかし原作者の原作も読んでいないのに、認められているとは言え別人の作品を先に読むのには違和感がある。
どちらも読めばいいのだろうが、ただでさえ読むのに時間がかかる海外小説だ。読んでるうちに公開が終わってしまいそうなので、潔く先に映画の方を鑑賞することにした。
6月16日封切りでちょうど良いとばかり、父親を誘って一緒に観に行った。
ちなみにかの探偵は過去何度も映像化されており、父親曰くロバート・ミッチャムが演じた彼が一番イケているらしい。1975年か〜。

随分と前置きが長くなってしまった。
期待を込めて観た本作品は、なんともいぶし銀な本格派推理作品であった。
鑑賞前に心配していたのはまずもって、主役マーロウを演じるリーアム・ニーソンのご年齢である。
原作では中年とあるのでせいぜい40代後半くらいが許容範囲だろう。リーアム・ニーソンは御年71歳。結構な肉体派俳優であることは承知しているが、少し無理があるのではないか。

だがしかしスクリーン上で拝謁したニーソンは、そんな予想を華麗に裏切って若々しく力強く、それでいて渋くカッコよかった。権力におもねることなく、しかし教養と礼儀を持ち合わせるハードボイルド探偵と銘打つにふさわしい。
「老いた」と言いながら屈強な輩にもひるまず拳でものを言わせるのところは流石ニーソンといったところか。マーロウの特徴のひとつである高身長も問題なくクリアしているところが高ポイント。

ストーリー、そして謎解きの方はなかなかに難解である。そして地味でもある。
結末についても自分なりにこういうことか?という推察はあるが、いまいち確信が持てない。その点は少し不満だが自分の読解力の問題としておこう。
地味だがしかし、登場人物の憤りや悲しみ、または企みなどが丁寧に作り込まれており、物語に破綻は感じられない。
1930年代を舞台としたノスタルジックなフィルム・ノワールは役者の衣装や町並み、そして自動車などにもわざとらしさがなく、スクリーンの向こうで烟った空気が流れるリアルさがあった。

ラスト、謎は解かれるがしかし、はっきりいってスッキリと”The End"とはいかない。
悪者には死が訪れるが、全ての悪が日の下に明らかになり罰せられるというわけでもなく、むしろその悪を呑み込んで新たな頂点が生み出される(それが悪に染まり切るかどうかは不明だが)。
だが作中の1939年とは第二次世界大戦の真っ只中であり、アメリカはジリジリしながら参戦のタイミングを見計らっていた頃合いである。国力増強のパワーを持つ巨大権力が尊重され、力のない人々の死や苦しみは、些事とまで言わずとも今よりずっと軽視されていたに違いない。
時代背景を考えれば、スッキリしない結末こそがリアル、なのかもしれない。

ハードボイルド探偵、リーアム・ニーソン。
同伴者の反応もまずまず。父の日のプレゼントとしては上々だったと思う。
惜しむらくは上映劇場の少なさ。
リーアム・ニーソンの記念すべき出演100作目!の売り文句よりも、派手なアクションも斬新なCGもない地味さに配給会社が日和ったか…。
熱心なチャンドラーファン(チャンドリアンというらしい)である村上春樹の新訳も出ていることだし、できればこのカッチョイイ男を沢山の人に観てもらいたいと思う。原作も頑張って読もう。


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