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映画感想文【ミツバチのささやき】

1973年 製作(スペイン)
監督:ビクトル・エリセ、出演:アナ・トレント

スペインのある小さな村に『フランケンシュタイン』の巡回上映がやってくる。6歳の少女アナはスクリーン上の怪物を精霊と思い、姉から怪物は村外れの一軒家に隠れていると聞いたアナは、ある日、その家を訪れる。そこでひとりの謎めいた負傷兵と出会い……。

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午前十時の映画祭にて鑑賞。
映画評論家、町山智浩氏の解説が上映の前後に流れて、一体どういうことかと思った。
というのも、この作品はフランシスコ・フランコによる長期独裁政権下で製作されたものであり、厳しい検閲を逃れるため様々な意味が隠されていたらしい。中心となる四人の家族をスペインの現状やそれに至った経緯に見立て、憂え、未来への希望を込めて作られたのだとか。
なおこれは後に制作陣らが自ら語ったことなので、れっきとした事実である。

なるほど、確かにそれらの意味は解説を聞かなければ理解できない。制作時の時代背景を知っていたとしても、そこまで深い暗示を正確には読み取れないだろう。解説は制作陣の作品に込めた祈りを正しく伝えるためには効果的だったかもしれない。
しかし、必要だっただろうか。

そのような詳しい解説がなくとも、映画は静謐で可憐で、儚く物悲しい美しさを十分語ってくれる。
幼い少女アナは恐ろしい怪物、フランケンシュタインを現実のものと思い、無知で自由な子供らしく想像力を働かせて逃亡者(反フランコ政権の負傷兵らしい)を匿う。
そのアナの行動原理となるのは、姉イザベルのこれもまた子供らしい残酷な振る舞いである。
二人の行動が織りなすドラマが悲劇につながるのか、ただ流され隠されるのか、静かなのに目が離せない。

養蜂に従事する父親のどこか諦念ただよう雰囲気や母親の意味ありげな手紙などは、確かに解説の通り政治的な比喩を多分に含んでいるのだろう、その辺りを意識して観なければ違和感が残る。
ただそれも、鬱屈した時代背景を知っていれば十分ではなかろうか。二人の姉妹を見守る視線は偽りなしの本物に見える。


アナの大きくて真っ直ぐな、美しい眼差しが終始印象的だった。
子どもを主人公にした物語は大人が紡ぐそれよりも予測が難しいからか、見逃せない一瞬の連続である。
解説では『汚れなき悪戯』(1955年スペイン)についても言及していたが、他に『禁じられた遊び』(1953年フランス)なども連想させる。近年の作では『ポネット』(1997年フランス)や『誰も知らない』(2004年日本)あたりも子どもの罪のない無知がもたらすドラマとして挙げられるだろうか。

動物と子どもにはかなわない、と格言めいた言葉が映画にはあるらしいが、なるほどもっともだろう。
コメディ映画になるが、『ロッタちゃん』シリーズなどは個人的に一押しの魅力である。

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