地上、陥没する危険性について

殆どの人魚姫は、恋をするのは自由奔放、無邪らんまん、好きに生きている。
ところが、恋をするとなると、人魚姫たちは重力を感ずるようになる。神に愛された代償だった。美しい人間を真似た上半身、美しいクジラを真似た下半身、年頃の若き乙女。人魚姫の姿のすべては、神の目を楽しませるためにできている。

だから、人魚姫は、愛情を知ると墜ちる。

海の底まで。

真っ逆さまに。
二度と這い上がることはできぬほど、外見は変わらないのに何トンもの重みが与えられて、深海のエイみたいになって生きるしか、なくなる。
神からの寵愛、永遠の若さ、美しさ、可愛らしさ、そういったものを受けて産まれたときから、この運命は彼女たちが知らずとも定まっていた。神は、自分は好き勝手にするけれど、愛玩しているものらの浮気は許さなかった。

人魚姫の物語にでてくる人魚姫は、本当ははじめは、好奇心だった。だから彼女は海を抜け出せるまで重みがなかった。
しかし、その感情が恋になり、愛に変わる。
その瞬間は王子様を刺殺するのを諦めて、自らが泡になる運命を受け入れて、朝日を眺めようとする刹那のことだ。

家族への愛情、海への愛情、王子様への愛情、彼女は、だれかを愛する喜びを知って、高揚感すら抱いて自らの死を願った。

刹那。地上が、人魚姫を中心に陥没するのを防ぐために。人魚姫を大穴にしてずぶんと大陸ごと深海まで墜落するのを防ぐために。
精霊が彼女を精霊に変えた。

決して、愛の物語では、なかった。
そこに愛はあるけれど。

あるけれど、ね。


END.

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海老かに湯
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