依存症とは人を物におきかえることーーデイミアン・トンプソン『依存症ビジネス』ダイヤモンド社

自身もアルコールの依存症だった経歴を持つジャーナリストによる各依存症(と関係するビジネス)の話。依存症とは、違法薬物(いわゆるドラッグ)だけが原因物質ではない。アルコール、処方薬(ADHDの治療薬やスマートドラッグ、鎮静剤など)、糖分も深刻な依存症をひきおこす原因となる。さらには、物質だけでもない。ゲーム、ギャンブル、ポルノも依存症になる。物質依存も、行為依存も、共通しているのは脳内で欲望の引き金となるドーパミンを放出することだ。脳内の生化学的現象を注視するのであれば、物質も行為も、非合法薬物も合法的物質も、なんら違いはない。

筆者はAA(アルコホリクス・アノニマス、アルコール依存者の自助組織)での経験を語る。「依存症は回復不可能な病気である」というAAの態度に批判的だ。AAのような集団の助けがなくても依存症を脱した人もいるわけで、依存症とは病気である以上に習慣ではないのか、と筆者はいう。しかし、これは事態を楽観的に見ているわけではない。依存症に陥りやすい4つの要因がある。物理的・心理的・経済的・社会的な入手しやすさだ。そして、「現代の消費者は、ベトナムに派遣された兵士に似ている」「混乱しておびえているうえに、現実をもっと我慢できるものにすると約束してくれるフィックスに、ひきもきらずにさらされている」からだ。極端な言い方かもしれないがインターネットを使っている限りポルノを断つことは不可能だろう。バーに通いながら断酒できないように。バーに通うことは控えられるが、インターネットを使わないでいることは、難しいというか不可能だ。

興味深く読んだのは、アメリカやそれに続いてイギリスでも広まりつつあるスマートドラッグの濫用・依存である。「寝なくて良い」「集中できる」と言われるスマートドラッグは、しかし、頭を良くするわけではない。薬物への耐性もつき、使い続ければ依存症になる。また、脳にどのような長期的な影響がでるか、まだわかっていない。アメリカではADHDの診断が出た子供にリタリンやアデロール(アンフェタミンの一種)を投与する。アンフェタミンは日本語風にいえば「覚醒剤」で、投与された子供は、たしかに「覚醒」する。「ADHDの治療薬」とされるが、実は、ADHDではない子供にも同様の「覚醒」効果があるわけで、それは果たして治療なのか。現代の学習者は、ベトナムに派遣された兵士…なのかもしれない。

筆者は依存症の本質を「人を物におきかえる」ことだという。なるほど。人間関係を破壊し、人を物としか見れなくなり、また自分自身も即物的な刺激ー反応する機械に思えてくる。依存症とは、広く言ってしまえば、生き方であり、現代社会は人々を何かしらの依存へと誘引する物に溢れている。(私も例外ではない。)


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