事後承認

ある晴れた日の午後、一軒の家のチャイムが鳴った。
『ピンポーン』

「はぁーい、どなた?」
「国防省のものです」
「それはどうも。申し訳ありませんが息子は今、留守でして…」
「承知しております。実はお母様に息子さんの事でご連絡に上がりました」
「ご連絡…? あっ、そういえば海外の災害救援活動に行くと言ってたかもしれません。その事でしょうか?」
「ええ、その通りです」
「あれっ、でも予定はもうちょっと先って言ってましたけど?」
「これは規定の一つなのですが、迅速な対応が求められる場合は国会の承認を事後承認という形で活動できるように改正されたのです」
「えっ? じゃあ、もう出国しちゃったの? やぁねぇ、メールもよこさないで行っちゃうなんて」
「それは仕方ない事でして、他国との連携を主とするものは秘密保持が義務付けられますから。なので私がこうして伺ったわけです」
「ああそうですか。で、息子は活躍してますか? 元気だけが取り柄ですからビシバシ使って下さいねぇ」
「とても素晴らしい活躍だったと聞いてますよ」
「『だった』って帰国してますの?」
「ええ、早くに出国した隊は活動を終えて、つい昨日に帰国しました。それで、コチラをお持ちしました」
「アラ、なんでしょう」
男は鮮やかな布に包まれた壺を婦人に差し出した。壺には模様が描かれており、異国の不思議な雰囲気を醸し出していた。
「まぁ、キレイな壺。お土産かしら。開けてみてもよろしいですか?」
「ええ、どうぞ」
男は低い声で答えた。
「ヒャアッ!骨じゃないですか!」
『パリーン』
思いもよらないプレゼントだった為に思わず婦人は壺を落としてしまった。
「イタズラは止して下さい! アナタ息子に頼まれてこんな事をしてるの?」
男はしゃがみこみ、割れた壺の破片の中から小さな骨を拾いあげて布に包むと、それを再び婦人に差し出した。
「申し訳ありません。これだけしか回収できませんでした」
「アナタ何を言ってるの?」
「事後承認という事でご報告が遅れた事を申し訳なく思っております。これは息子さんの遺骨でございます。
それと、いつどこでどのように亡くなったのかは作戦の漏洩に繋がりますので申し上げることができません。
それでも質問した場合は秘密情報の扇動に当たりますのでアナタを逮捕しなければなりません」

風が吹くたび割れた壺の破片はカラカラと音をたてて揺れるのだった。
#ショートショート #小説 #集団的自衛権

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