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こんな81歳にどうやったらなれる!? 楽器の枠に囚われない音楽性を表現し続ける巨星 ハインツ ホリガー。

こんにちは、ファゴット奏者の蛯澤亮です。

平日更新のえびnote、ファゴット意外にも様々な情報を発信していきます。

今回紹介するのはオーボエ奏者であり、作曲家であり、音楽家として必ず歴史に名が残っていくであろう巨星 ハインツ ホリガーについて。なぜ急にホリガーかというと、先日、ホリガーのコンサートがyoutubeにアップされたのです。これがなんとも素晴らしく、たくさんの方に聴いてほしいと思ってこの記事を書きました。


ホリガーって誰?

ハインツ ホリガー(Heinz Holliger)は1939年生まれ。なんと今年で81歳!!改めて動画を見てからこの年齢を見て驚嘆しました。

ホリガーの経歴はこちら

ホリガーといえばまずオーボエ奏者として傑出した人です。私は高校時代、クラウス トゥーネマンというファゴット奏者が好きでCDを買い漁っていました。すると、ホリガーというオーボエ奏者と一緒に演奏していることが多かったのでホリガーの存在を知りました。正直、ホリガーの音楽性に魅了されました。それからホリガーの演奏はずっと大好きです。

そして、作曲家としても有名です。彼の作品は国際コンクールでも課題曲になったり、これからも重要なレパートリーになっていくでしょう。

さらに指揮者としても活動しています。名奏者が大体やることですねw


2020年7月6日に行われたコンサート

今回紹介するのは今年7月にスイスのバーゼルで行われたコンサート。ホリガーの名演はたくさんあるけれど、80歳を過ぎた今だから考えさせられることもあります。

このコンサートはパイプオルガンとチェロとのトリオによる演奏。バッハから現代音楽までを教会の豊潤な響きで行うヨーロッパならではの魅力的な演奏会だ。ホリガーが演奏するWyttenbachという現代作曲家(今年4月に亡くなったので追悼演奏という表記があった)の作品は舞台ではなく、聴衆から見えない部屋で遠くから響いてくる。完全な現代曲なのに遠くから教会の響きに乗って聴こえてくる調べは頭を空っぽにさせてくれる気がした。

さらにホリガーの作品もチェロによって演奏される。ぜひ聴いてみてください。


ホリガーは別格?あの音が許されるのはホリガーだけ

ホリガーの音を良いというオーボエ奏者はかなり少ない。今でこそ伝説となり、一つの形として評価されているが、自分がホリガーのような音を出したいと思う人は少ないだろうし、出したら出したで周りから批判が来るだろう。

ホリガーの音は良いとは言われない。言ってみればペラペラの音だ。私は全然嫌いではなかったが、そう言われることも理解はできる。

私は大学一年生の時に神戸国際学生コンクールというのを受けた。結果は2番目の賞を頂いたのだが、その時の評価は総じて「音を研究するべし」だった。その中で一人の審査員の講評にホリガーが出てきたのだ。

「表現は素晴らしい。だが音がお世辞にも良いとはいえない。ホリガーのように音がよくないが表現で評価されている人もいるが、これからの演奏家は音と表現の両方を備えないと評価されないだろう。素晴らしい音楽性を持っているのでぜひ音で足を引っ張られないように一般に評価される良い音も研究して高みを目指して欲しい」

うる覚えだが、こんな感じのことが書かれていた。私はホリガーを引き合いに出されたことがとても嬉しかった。そしてそれにより私がやっている方向も理解してくれ、良いアドバイスを得られたと思った。

このことでもわかるようにホリガーの演奏は評価されているが音は評価されていなかった。不思議なものだ。音も含めて演奏や表現ではないのか。しかし、それもまた私にとって「演奏とは何か」を考える良い機会になった。


80歳を超えたホリガーのオーボエ演奏

歳をとれば体も動かなくなるし体力も精神力も衰えてくる。これが定説だ。実際に体は明らかに歳をとれば老けてくる。管楽器を吹くことは実はなかなかの重労働で、一つのコンサートを終えると体重が減っているなんてことも普通だ。まして70歳を越えれば、健康に悪いと言われるオーボエなんてそうそうしっかり吹けるものではない。

ホリガーももちろん年老いている。細かい指まわりや音程などが不安定になてきている。そう言ったことはもちろんホリガーでさえおきてしまう。人間だもの。

しかし、私が感じたのはその変わらぬ豊かな音楽性だ。そして、それを80歳を過ぎてなお、感じられるほどの演奏レベルを維持していることに感動した。

ぜひお聴きいただきたいのはテレマンのソナタ。こんなに細部まで歌うかというほど彼の音楽はずっと繋がっている。休符があっても休みではない。ずっと音楽が続いている。一つの音でも色や表情が変わっていく。良い音を求めているだけの演奏家には絶対にできない空気感だ。

私は結局、演奏家に求められるのは音楽性ではないかと考えている。いかに音楽性を積み重ねて練っていくか、そしてそれを持続する精神力を持つことが「生涯音楽家である」ことなのではないかと思う。今回のホリガーの演奏は正に彼の生き様が見えた気がした。その演奏の本質を自分なりに感じた時、これまでにないほどの美しさを感じた。

動画はテレマンの出だしに合わせてあるが、ぜひお時間があればコンサート全てお聴きください。ヘンデルも現代音楽もとても素晴らしい。ぜひホリガーの作る流れに身を委ねてみてください。

もちろん、私の主観なのでこれは一つの考えを紹介したに過ぎません。様々な感想と評価があるのが芸術や娯楽の世界。ご意見、ご感想はコメントに書いてみてくださいね。

年老いてもなお、ここまで音楽に情熱を燃やせる素晴らしさ。私も日々精進しようと思います。

それではまた。良い日をお過ごしください。

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