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師匠引退。ウィーンフィルに45年。ウィーンの伝統を守り続けた巨匠。

こんにちは、ファゴット奏者の蛯澤亮です。楽器を吹いたり、youtubeやnoteで情報を共有したり、コンサートの企画運営をしています。

今回は私の師匠ミヒャエル ヴェルバがついにウィーンフィル を定年退職するという記事がウィーンフィル のFBページにアップされていたので、わかってはいたが、ついにか、と来るべき時が来たなという感じです。

確か20歳のときにウィーンフィル に入団したので45年勤め上げたことになります。本当にお疲れ様でした。

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ウィーンフィル FBページに乗っていた写真を拝借。

ザルツブルク音楽祭で演奏中のウィーンフィル ですが、今年定年になるバイオリン奏者のヘル氏と二人でスピーチをした写真が載っていました。

彼はウィーン国立音大の声楽家の名教授エリック ヴェルバの息子として生まれ、ウィーンの伝説的ファゴット奏者であり、ウィーン国立音大の教授だったカール エールベルガーに学び、若干20歳でウィーン国立歌劇場管弦楽団に入団 、数年後ウィーンフィル に入会し、首席奏者になりました。10代で既にウィーン交響楽団に入っており、かなりの秀才だったことが伺えます。

24歳で結婚し、3人の子供、長男のシュテファンは私と同い年でオーボエを勉強し、一緒に大学で学んでいました。これ、子供の名前も奥さんの名前も全部ウィーンフィル の団員プロフィールに載ってます。すごいですね。

長男は同い年だし、うちの親と同年代なので完全にウィーンの親父といった感じでした。最近は会うたびに親以上に「そろそろ結婚はしないのか」「良い人はいないのか」とうるさく聞いてきますw

彼の元で勉強したことはたくさんあります。私の音楽家としての基礎を作ってくれた人です。野村克也監督はチームに野球の話だけでなく、人間としての話をすることが多かったようですが、ヴェルバもそういうタイプ。演奏の技術面だけではなく、内面についても様々教えてくれました。

「音楽家のスイッチは一つ。オンかオフだけ。音楽家としてオンのスイッチを押したら常に100%。手を抜いたらチカチカする電球と一緒だ。使い物にならない、必要じゃない。常に100%の力を出せ」

これはたくさん学んだ中でも私の基礎となりました。気分屋ですぐに手を抜いてしまう私は何度も怒られました。今でもこのことはよく思い出し、自分を律しています。

さて、彼が演奏した中でも名演の一つがウィーンフィルの中で初めてソロを吹いたという本番。30歳のときです。指揮はバーンスタイン。ハイドンの協奏交響曲。バイオリンのキュッヒル、チェロのバルトロメイ、オーボエのレーマイヤーとこの時代の首席たちの共演。この中でもヴェルバが一番若かったのですね。私が留学している間にレーマイヤー、バルトロメイが定年になり、キュッヒルも数年前に定年となり、最近はN響にゲストコンマスにきていたりしますね。

この時代の演奏はとにかくアーティキュレーションの合い方が半端ない。フレージングから細かい音の長さまでバッチリ合っています。同じ教育を受けたオーストリア人だけという閉鎖されたオーケストラだからこそ実現できる演奏なのだろうと、最近のウィーンフィル を聴いて思います。この頃はウィーンフィル に限らずオケの個性がしっかりとありましたよね。

オーボエだけがトレチェクに変わって80年代にもアダム フィッシャー指揮でハンガリーのオケと録音したCDが残っています。この演奏もとても素晴らしいです。私の愛聴版です。

昨年はヴェルバが最後の日本ツアーになるので私がマスタークラスとミニコンサートを企画しました。急な企画でしたが、ありがたいことにたくさんのお客様にお越しいただきヴェルバも大変喜んでいました。

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本当は今年、生徒さんと一緒に秋にウィーンへ行く予定だったのですが、この状況で中止となり残念です。ヴェルバも乗り気だったので、コロナ騒動が終わったらすぐ企画してまた再会したいです。

ということで今回は師匠について書いてみました。学んだことはたくさんあり、ファゴットだけでなく、演奏全てに通じるものも多いのでそれを共有できるセミナーやサロンを作りたいと最近思っています。

それではまた!


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