見出し画像

先生の選び方。なぜ高校生の自分は師匠を選んだのか。何を学ぶべきか。

こんにちは、ファゴット奏者の蛯澤亮です。楽器を吹いたり、youtubeやnoteで情報を共有したり、コンサートの企画運営をしています。一緒に人生を楽しんでいきましょう♫

昨日の音大の選び方の続編。

今回は先生の選び方です。

音大進学に関して言うと、どの大学よりもどの先生に習うかの方がかなり大事だと思います。これは留学に関しても同じです。大学や街よりも重視すべきは自分が何を求め、誰に教えを乞うかです。


私が馬込勇に師事した理由

私は高校一年の後半からファゴットを始めて大学卒業まで馬込勇先生に師事しました。私の最初の音楽の師匠であり、演奏に関する考え方の基礎を教えてくれた人です。

前回書いたように、私は馬込先生の音に惚れたわけでも、馬込先生のような演奏をしたいとも思いませんでした。これはウィーンで習ったヴェルバも同じです。しかし、なぜ師事したのか。

馬込先生にあったのは音楽に対する激しい情熱です。演奏をする時、教える時にふと吹く時のエネルギーが凄かったのです。

「ああ、プロの演奏家とはこんなにもエネルギーを感じるんだな」

と高校生の時に思いました。

音でも歌い方でもなく、エネルギーに圧倒されたのです。その後、たくさんの演奏を生で聴きましたが、そういうエネルギーを感じる人はプロでもなかなかいません。言葉で表しきれないものが何なのか、それが私が一番得たいものでした。

馬込先生の演奏は録音にうまく入っていないのが残念です。生で聴くと会場全体を包み込むような音ですさまじいエネルギーが伝わってきます。レッスン室で聴くとビブラートで部屋の空気が揺れている感覚がありました。それだけ迫力のある演奏です。

学ぶべきことは表面ではなく核となる部分

当時、馬込先生はリンツ ブルックナー管弦楽団の首席ファゴット奏者を辞め、日本に本拠を移して教育に力を入れようとしていた時期でした。まだ40代前半と若く、日頃から情熱に溢れ、生徒に対しても厳しく指導していました。還暦を過ぎた最近の馬込先生の生徒たちに対する優しい雰囲気を見ると時代の流れを感じます。

当時はレコーディングやコンサートツアーで一ヶ月程日本にいないことも多く、ソロの演奏活動と教育を精力的にこなされていました。そんなところも生徒としてカッコ良いなと憧れ、誇らしかったものです。

そんな馬込先生に習う門下生たちは馬込先生を目指し、馬込先生のように演奏したいと頑張っている人たちばかりでした。私は自分より上手く、向上心のある人たちに囲まれて良い環境とは思いましたが「馬込先生のコピーになるのは違うよなぁ」と思っていました。事実、当時は全員が先生からリードをもらっていたこともあり、皆同じような音をしていました。そして、同じような癖も持っていました。

前述した通り、私は馬込先生の音を出したいと思ったことはありませんでした。馬込先生のとは基本的に太く柔らかく、どこか日本的な香りのする音でした。ずっとヨーロッパで活躍していた人なのにヨーロッパ的というよりも日本的な音色だと私は感じます。面白いものです。

皆さんはどう感じますか?

さて、私はというともっと輪郭がはっきりして深みは欲しいけどシャープな音のイメージを求めていました。違う音を出したいという思いからも大学に入ってすぐに「リードを作りたい」と願って、当時の先生の方針とは違いましたが、先生も「じゃあ先輩に習ってやっていなさい」と許してくれて、当時門下生で唯一リードを作っていた卒業生に習ってリードを作り始めました。大学で違う門下にいた先輩たちからは「君だけ馬込門下の音がしないね」なんて言われました。

門下の先輩からは変な目で見られていました。「そんな吹き方するならなんで馬込門下にいるの?」くらいに思っていた人もいたと思います。でも私は誰よりも馬込先生を尊敬していたし、学ぶべきものを学べたという自負があります。それが核となる部分です。


感覚を掴む

音色は人それぞれ違って良い。それは馬込先生も昔から言っていました。だから私の音に対してもかなり我慢をしながらアドバイスをしてくれていたと今は感じています。おそらく、「今はこういうことを考えてやっているんだろう」と想像されて、それでも「ここは」というところだけご指摘いただいたのだと思います。だから私は成長できたと思うし、自由にやらせてくれた馬込先生には本当に感謝です。

フレージングもアーティキュレーションも表現方法もそれぞれ技術だと私は思っています。その技術は学ぶべきです。しかし、表面的な音を真似しても意味はありません。ヴェルバにかなり厳しく教えられましたが、馬込先生にも基礎のアーティキュレーションをしっかり教えられました。その時に大事なのはそこに「感覚」がついてくるかです。感覚が掴めれば応用がききます。でもただ先生の手本を表面的にコピーするだけでは発展しません。自分の感覚に落とし込むことが大事。そのためには「先生はどういう感覚でやっているんだろう」と中の部分まで想像して理解しようとしなければいけません。

歌い方ひとつを習うにしても大事なのは出ている音の表面的な実態を捉えるのではなく、そこにかかっているエネルギーや流れを分析することが大事です。どういう拍を感じ、どういうエネルギーがどう流れて、どんな響きでどんな色で、、、総合的に感じなければいけません。でないとただの真似か平面的な演奏になってしまいます。


演奏をする際の前提条件

そして、馬込先生に特に重要視されたのは音楽に没頭する情熱です。私が馬込先生に感じた魅力、それを生徒に対して要求していました。

「私たちの仕事は楽譜の奥に書かれていることを聴衆に伝える仕事」

習い始めに言われて印象に残っている言葉です。

楽譜に書いてある音を出すのではなく、そこにある様々な感情や風景や色彩を表現しなければいけない。

だから気が抜けた演奏はすぐに指摘されました。ミスをしたり、技術が追いついていなかったりすることよりも音楽をなんとなくやっている時が一番怒られました。

「演奏をする時の根本的な情熱」

これが馬込先生に習った最たるものではないかと思っています。


今回も長くなりました。今回は2500字近く書いてしまいました。書けばたくさん出てきますが今回はこの辺で。良い日をお過ごしください。


「記事がタメになった」「面白い」と思った方はご支援いただけたら嬉しいです!今後さらに情報発信する力になります!