恋は戦争だった。

恋を見つける。すると、大変ね。彼女たちの頭はそれでいっぱい。どんなに頭の秀でた子も目がくるくるになってパァーッと光につつまれる。それをヒトは美しいと言う。

けれど、同族の人魚たちは、恋を見つけた子を嫌う。

なにせ、くるくる、パァーッ、になってしまう。どんなに聡明な子でも屈強な子でも、病んだみたいにヘナヘナになってしまう。生きものが退化するみたいに。

特殊な命のカタチをしている人魚たちだから、そうした変化に対する嫌悪感は、特に激しかった。恋に堕ちた人魚を殺すことだってある。
心が死んだように、アレが愛しい、恋しい、しくしくしくしく、泣き暮らす声に皆でイライラして、皆で殺してしまうの。

魔女と言えるほどチカラを蓄えた海の生きものは、ほとんどが人魚たちの美しさを愛している。それこそ淡い恋心を抱くように。

だから、魔女たちは、なんやと理由をつけては、ソッと人魚を逃して送る。外の世界へと送り出す。

それは、逃亡である。夜逃げ。恋しい心に囚われた子を、他の人魚から守るために、恋だけに生きられるように。

でも、人魚たちは恋する人魚を嫌うから、なんやと理由をつけては海に戻そうとする。例えば、魔法のナイフで相手を刺殺さなきゃ泡になって消えちゃうよ、とか呪いを魔女から買ってきたりしてね。

魔女と人魚の攻防は、ここ何万年もずっと続いている。人魚の恋は戦争だ。


END.

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