専用の子ども

あれは、あの子の専用だから。彼を指差して皆はそう言った。

彼は、成績表などを見れば凡人と同じだ。行動も同じだ。給食も食べるし、体育もできるし、明らかにちがう行動もしない。

ただ、彼は、見た目がよかった。それこそ人魚姫だって他の全員を見捨てて「彼だけ」助けてあげるくらいに、眉目が整い、画家が見本に描いたかのように顔貌のバランスが秀でていて、どの角度から見ても彫像か偶像か造り物めいた完全性を備えていた。ひと目で、贋作など存在し得ないとわかる、そうした一級品をも超えた美術品と変わらぬ美貌の持ち主だった。

彼が皆とちがい、家族ともちがう、それがそこだけでも、それこそ天と地をわける違いであった。

彼は、理事長の娘に「選ばれて」いた。その子の専用品にされていた。遊ぶとき、勉強をするとき、クラス分けですら離れ離れにはならない。なぜなら、専用品だから。

彼は結婚の約束もすでにされていた。入学先ももう決まっていた。

ただ、結婚の相手は、彼女ではない。彼女の手下になっている、彼女の親の会社の役員の娘との婚約である。なぜなら、彼は、専用品だから。
専用品は、彼女の夫、主人になどはなれないのである。専用品だから。

所詮、品物だから。
愛用品にすぎないから。

専用品にされる、専用にされる、それはつまり人間性の否定をも兼ねているのであった。

彼は、彼自身は、自分の顔に、金塊よりも価値あるその顔面に、ナイフをざくざくと切り込みを刻みたい衝動と。

毎日、戦い、また、耐えていた。
どちらにしたって目立ってしまうからだ。呪われているのである。運命に。


END.

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