待つわの人魚姫ちゃん

人魚姫は、王子さまが振り向いてくれるまで、待つことにした。
ほかの誰かと王子さまが睦んでも。キスをしても。プロポーズリングを指に嵌めていくのを眺めていても。遠くから待っていても。待っていること、それだけでも、全身と全力と恋と愛をもって待つこと。

王子さまがほかのヒトと結婚式を挙げるのを手を叩いて祝福した。

王子さまが王さまになる、冠婚式も見つめた。

王さまは、よぼよぼの皮と骨になり、かつての見目麗しき麗人の面影も薄れるどころか消えてきた。死神の鎌が、引退ご隠居のうしろに見える。人魚姫はこのときには街を離れて、かつて自分を人間にした魔女のように、魔法や、ふしぎなもの、魔物の部位などを売るなどして暮らしていた。外見に変化のない己の本性は、王子さまと結ばれなかったことによる、滲み出てきていたのだった。女は10日のうちに一度は丘にでて、城下町を見下ろして、その先にあるお城を、王子さまだった王さま、ご隠居を想った。

ついに崩御の知らせが届き、女はいよいよ彼を迎えに行った。その國では魔女の襲来として1000年先でも語られる事件であった。

女は、動くことのなくなった髑髏を墓から出して、頬ずりした。

振り向いてくれるまで待ったけれど。振り向いてくれることはなかった。
ただ、振り向かせることはできる。こうして。髑髏の額に己の額を合わせて、人魚姫であった魔なる女は、一筋の涙をこぼした。

期待する抱擁も、優しい言葉も、笑顔すらもない、そんな恋であった。

女は、帽子をかぶった。髑髏付きの帽子。ていねいに縫い上げて上等な布でくくりつけた髑髏が、女の顔よりもまず第一に、目に飛び込む。女は、髑髏の魔女と呼ばれるようになった。

女の恋のすがたであった。
恋を成した、すがたであった。

誰にも理解されぬ、女自身ですらもう理解はできぬが強く執心している髑髏をどうしてもそばに置きたかった、だからこうなった、すがた。であった。

恋に生きた人魚姫の姿があった。


END.

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