悪魔のミサ(描写練習)

黄色ばんだ肌に、日本人形を思わせるぷっくらした山なりラインの上唇に、ほそながい下唇。しかし、今は青褪めているせいか、肌は陶器のように白く今日だけは西洋人形のようだった。
少女の髪は真っ黒く、くせがなく、剛直に下へと伸びるセミロング。目は丸く、吊り目でもたれ目でもなく、平均的な顔立ちをした中庸な女の子である。
手足は彼女の年齢と同じほどに短く、頼りなくほっそりしていた。痩せている。しかし同年代の少女らにうらやまれるほど痩せているわけでもなく、お尻はふくらんでいたし、胸はふくらんでいなかった。ぱ、と見たところ、もしかすると女の子のような男の子、と思う人もいるかもしれない。
しかしながら、今、少女の全身はもさくさした黒い藻のような黒いものに覆われてもさくさもさくさとうごめき、毛のながい絨毯が気持ち悪く蠢いているようだわ、と彼女は自分で思うのだった。

(そうだ。本で読んできたのに。ほうきで空を飛んだり、魔法を使ったり、ああいう『魔女』なんじゃなくって……、本で読んだことないわ。あたし、悪魔なんだった。『魔女』じゃなくて、悪魔なんだった)

もさくさ、もごもごする黒い塊に覆われる人間のような生き物の少女こそが本日のミサの主役である。
一同が、彼女の自己紹介に注目する。
満月の夜、誰も知らない廃工場の片隅で、悪魔たちは集合していた。神奈川県のとある某所。ふるぼけた匂いがして、生ゴミっぽい生臭さが乾燥しきった夜風にかすかに混じっている。そんななか、少女の晴れ舞台は用意されていた。
もが、もご、口を開けると、全身を覆う狼の毛のような蠢く黒いもさもさが、唇からほんの少しだけ離れて喋れるように変形した。
少女は、晴れ着をきていたが、それも今は真っ黒く覆われている。頭をたらしてふるえながら自己紹介をする。

「はじめまして。ハルミハルミバハルバルナバヌハル・ミー・ミサ、と申します。今日から、どうぞよろしくお願いいたします。悪魔の、皆々さま」

とある小学生の女の子は、今日から、悪魔になる。



END.


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