復讐する泡姫

「源氏名……ですか。では、泡姫で」

楚々とした身なりと仕草で彼女はひょうひょうと言ってのけた。
店のオーナーは感嘆を鼻から漏らす。

こりゃ、コイツは売れるわ、そう値踏みしてのこと。おそらくはどこかの名家が没落してコッチの業界まで流れてきたのだろう。彼女の履歴書は2枚に渡り、バレエや、ピアノの経験が書いてある。

オーナーは心の奥を隠しきれず、にやにやしてしまいつつ、問いかけた。

「そんな名前じゃさ、早速こうさ、アダルトな事やろうとする客がでてきちゃうよ?」

「ですが、私の2つ目の名前といったら、こうでしょうから。そのために受ける如何なる仕打ちでも受けます。仕方のないことでしょうから」

「そーなんかい?」

オーナーは面を食らった。彼女があまりに慄然としているから。
食うに困り、新宿の裏世界に足を伸ばしてきた女には、見えなかったから。立場が逆で彼女のが面接官のようだった。

「ええ。私、泡姫と名乗ります」

覚悟をもって彼女は決める。彼女の家系の遥か遠く、祖先は人魚姫を娶ろうとして、しかし叶わず人魚姫を泡にさせてしまったと。彼女の家系には、恋物語が受け継がれている。

彼女は、遠い昔を眺めて、達観した。そして言う。

「きっと今、私の家は、私たちは、復讐をされてる最中ですの」


END.

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