少年少女死闘舞台AGE

エイジ――AGE、正体不明の侵略者の総称に値する。

はじめ、それは南極からの未知の疫病として広まった。

主に20歳前後の青年期を過ぎた者が感染し、18歳以下では感染率ゼロ%、30歳以上では感染率が100%――
いや、感染率というよりも、発症率と呼べるべきだろうか。ウイルスは蔓延している。それは、AGEの呼吸によって排出される、さも人間が酸素を吸って二酸化炭素を吐くように。未知の疫病蔓延から五年が過ぎ、未知の生命体との戦闘がはじまってからようやく、科学者達はこれを立証した。未知の生命は非常に攻撃的で人類抹殺を宿願と掲げているかのようだった。

それに応戦できる、健康な身体を保持している人類は、僅かな18歳未満の人間だけだ。
科学者達がそう発表したとき、世間の非難は彼らに集中した。しかし時間はなく、未知の生命体――年齢に応じたウイルスの根源としてage。エイジと呼ばれる彼らは、南極大陸から世界各地へと上陸していった。

次第に、非難の声など掻き消されて、かわりに少年少女達を鼓舞する応援と嘆願と懇願が世にあふれかえるようになった。

ウイルスの蔓延から十年、AGEとの戦闘開始から五年、各国首脳・国連承認のもと、正式に少年少女たちの徴兵制度はスタートした。

第一世代。AGEのわけのわからない戦闘能力や、わけのわからない生命力、わけのわからない戦争、わけのわからない異常な状況などに混乱、絶望、精神に異常をきたす者多数。圧倒的な死者を出して20歳を過ぎて引退。

第二世代。第一世代よりかは、奮闘した。わけのわからない生命に向き合うだけの覚悟ができた、というより、徴兵制度やAGEの存在が認知されて浸透しているという、すでに世界が変革していたがゆえの生い立ちから、真っ当な戦争行為が各地で成立。しかし、人類、劣勢。半数ほどの死者を出して20歳を過ぎて引退。

第三世代。もはや、AGEと戦うこと、徴兵制度が学校の模範ルールとされている世界に生きる少年少女たち。戦いに抵抗はなく、戦死も事故死とおなじようなものとして受け入れられて、彼らは奮闘した。兵器の開発が追いついてきて、ようやっとAGEの撃破に成功しはじめる。しかし人類は劣勢、半数ほどの死者を出して20歳を過ぎて引退。

第四世代。20歳を過ぎると発症しはじめる疫病、AGE、戦争、人類史からみれば異常きわまるこの時代が、生まれたときの肌感覚として定着している少年少女たちの部隊が誕生。最新鋭の兵器は、AGEの撃破に役立ち、今現在、その死者はまだ半数にも満たない、新たなる希望の世代である。
ハルカは、中学2年生となって、2年A組に進学した。

いまや、『学校』という名の機関は、義務教育を教えるとともに、AGEとの戦闘を指導して義務づける。少年少女達の拠点となる兵舎だ。
ハルカは1年生のあいだは、座学が中心だった。しかし進学とともに戦闘が授業に含まれる。

「起立、礼ー!」
「本日もよろしくお願いします」
声をそろえ、生徒たちが先生へと頭を垂れる。ハルカの席は、窓際のうしろで、よそ見をしても怒られない程度に彼女の身長も低かったので、ハルカはただ、これからのことを考えて嘆息をこっそりと吐いた。
面倒くさいなぁ、そんなことを考える。その溜め息を見ていた、隣の席の少年が、小声で話しかけてきた。

「きみ、みっちゃんって呼んでいい?」
「…………えっ。はっ? なんで」

「昨日さ。足立区にAGEの襲撃があったじゃん。うちの隣の家つぶされちゃってさ、みっちゃんも死んじゃって。僕ときみ、隣同士だから戦闘訓練じゃペアになるだろ? あだ名つけさせてくれよ」
「それでなんでみっちゃんになるのよ……。あたし、ミドウハルカ。はーちゃんとか、そういう方向性でよろ」

「はーちゃん」
少年は、頬杖をつき、高身長をむりやり学校椅子に押し込めて窮屈そうに座っている。少年はくすりと口角を捲って八重歯を覗かせた。
「はーちゃん、か。じゃあよろしく。新しい僕のみっちゃん」
「あんた。みっちゃんから離れなさいよ」
「わかったよ、はーちゃん」

「えー、私語はつつしむように!」

少年もハルカも、すんっとして、くちをつぐんだ。先生は黒板に立体図を投影して、それは巨大AGEの姿をしている。内部構造をスイッチのオンオフで透かせるようになっている。
ビルのひとやまほどある、巨大な怪奇生物は、機械仕掛けの精巧な時計のような筋肉と内臓がびっしり詰まっていた。構造上の弱点となる箇所、筋肉の継ぎ目などが、センサーで照らされる。AGEの解体指南、初歩の戦闘術。

明日からは、実践に向けての訓練が開始される。ハルカは、浅く嘆息して、パートナーとなる隣の席の男の子を軽く睨んだ。
彼もこちらを見ていた。うれしそうに、あだ名を呼んでくる。
「はーちゃん。なぁに? いきのころうね」

「あんた、頭は正気よね?」
ちょっと疑わしくなる、ハルカである。



END.

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