こんにちはが言えないカワカムリ

「まん見せて」
開口一番に彼は言った。
画面には赤黒く膨張したカワカムリと、それを上下に擦る彼の手が映る。

「こんにちは」
私はいつもまず挨拶をする。他人と接する時は挨拶からというのが人としての常識だと思っていたのだが、この仕事を始めた時はこれができない男性が多い事に驚いたものだ。

そもそもあのカワカムリもこのカワカムリも、画面を閉じれば「こんにちは、本日は是非このカワカムリをよろしくお願いします」と一礼くらいは出来るはずなのだが、ことカワカムリが膨張すると脳内もカワカムリになってしまうらしく、偏差値が2になり語彙を失うのだ。

「まん見せて」
彼は構わずこう言った。
私の挨拶など気にも留めずにシコリ続ける。彼は今、私のまんが見たいのだ。そして射精がしたい。しかし人としての常識やセオリーなどでは射精に導くことはできない。
「まんまん!」彼の脳内は今言葉を覚えたばかりのカワカムリが走り回りながら連呼しているのだろう。

しかし私も引き下がれない。
「こんにちは」負けじと続けた。

そもそも性器露出は出来ないのだが、そういったコミュニケーションを取る前にまず挨拶がしたいのである。彼がこんにちはを返してくれたら違う事を提案してみよう、痺れを切らして切断されたらそれは仕方ない事だと思おう、私はいつもそう思っている。
ところが彼はこう言った。

「まん見せて」
驚いた。大抵の場合男性はこの2ラリーでやっとこんにちはを言うか切断するかのどちらかなのだが、このカワカムリは違った。

そもそも開口一番に見せてと言う男性は急いでいる。
女の子と話したりちょっとずつ脱がせて楽しみたいという嗜みは不要で、ポイントをなるべく使わずに早い所脱がして射精したい。今すぐまんまんがみたい。だからこそ挨拶をする時間など無駄なのだ。

「まん見せて」というスタートは、人としての常識を捨ててまでも可及的速やかに事を進めたいというカワカムリの強い意志の表れなのだ。

しかし彼は3回目のこの無駄なやり取りをはじめようとしている。1秒たりとも無駄にしないために挨拶を捨てたはずなのに、この返答は非合理的だ。
時間は1分を過ぎていた。これはすでに課金が進んでいる事を意味する。私は彼が、ただの偏差値2の男ではないような気がしていた。

「こんにちは、言えるかな?こっち見てみる?」
そう言ってタンクトップから少しだけ谷間を覗かせてみせた。彼を少しでもまんまんの呪縛から解放する事ができないか、そう思ったのだ。
このままでは当然ながらまんも見れず射精もできず、ただポイントを失ってしまうだけなのだ。

「まん見せて」
だめだ。彼はカワカムリに脳内を侵食された偏差値2の男ではなかった。
彼はもうただのカワカムリだ。カワカムリの権化だ。つまり偏差値はない。ただの馬鹿なのだ。
これは深刻だ。何も考えていないのだから。
ポイントを失ってでもとにかくまんまんが見たい。まんまんがすきだ。言い続ければまんまんが見れる。強い願いは叶う。努力は必ず報われる。まんまんがすきだ。

「まんよりもエッチなところ見てみる?」
「まん見せて」
「まん見せようとしちゃうと怒られちゃうの」
「まん見せて」
「まん出したらビデオ切れちゃう」
「まん見せて」

こうして3分を迎えようとした所でカワカムリは姿を消した。ポイントがなくなったのである。

それ見たことか。
「こんにちは」を言えないという事はこれほど罪深いのだ。一度頭を冷やして正気を取り戻すといい。
そのカワカムリから手を離して深呼吸して、コーヒーでも飲んで一服して、なんなら職場からの着信で我に返りなさい。

私は彼にこのようなメールを送った。
「電波悪くなっちゃったかな、通話切れちゃってごめんね。まんまんは見せようとしちゃうと最悪BANされちゃって君とエッチな事できなくなっちゃうから、まんまんじゃないもっとエッチな遊びしよう」

そしてしばらくたって彼からこう返事が来た。
「顔とまんまんが見たいです。」

馬鹿でもわかるように説明したところでそもそも馬鹿は話を聞いていないのである。


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