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「山を買う」ということ

私は山の仕事を始めて一年近くになる。コロナをきっかけに世間ではたまたまアウトドアが脚光を浴び、さらには自分の山を所有することにまで関心が広がった。ここでは私が1年間山に関わってきて感じたことを記す。


まずはじめに、山林の土地について説明する。

「山」と聞くと、いわゆる⛰絵のようなポコッとしたひと山を想像する人もいると思うが、実際には多くが斜面の「一部」である。
個人が所有する多くの土地は、例えば尾根や谷を境界とし、住宅地や田畑と同様に所有者が区切られている。宅地や田畑と違うのは、境界線が直線でなく分かりにくいところが多いことだ。きっちりしている人は境界に杭を打っていたり、木にカラーテープやスプレーで目印をつけている。また、山でも徐々に地籍測量が進められており、境界や面積が確定しているところもある。

面積については1ha(10000㎡)にも満たない土地も多い。人によって2ha、3haと様々だが、国や市区町村・自治体などの所有地や余程の地主でない限り、山頂を超えてその先の土地まで持っているなんてことはめったにない。


そのため、山を買うにはまずはそこで何をしたいのかを明確にし、広さや地形など条件に合った土地を探す必要がある。平らで川があって明るくて…なんて都合のいい場所はなかなかない印象だ。


次に、山の現状を私が知る限りお伝えしておく。

日本は戦後の復興で多くの木材が必要となり、国の政策でスギやヒノキがたくさん植えられた。重要があるのでお金になる。切っては植え、木がその家の資産となった。

それから時は経ち、時代は変わった。
山をよく知る方々は高齢になり、山の手入れができなくなったり、所有している土地の境界や場所さえも知らない人が増えた。
また、住宅事情も変化し、安い輸入材が増えたり、柱を見せる和室や大黒柱などが減り、手間をかけて良い木材を育てても需要がない。国産材が安くなってしまった。

このような背景により、手入れされなくなった山がとても多い。
木が生えたい放題に育った山には日光が差し込まず、植物が育たない。地面に植物の根が張っていないと土砂崩れが起きやすくなる。動物たちも食べるものがなく、山から下りてくるしかない。今や山は、使い道もなく固定資産税がかかるばかりの「負の遺産」かのように思われてしまっている。

さて、ここでようやく「山を買う」話に戻る。

山の価値が下がっているので、購入額も固定資産税もさほど高くない。宅地に比べると手が出しやすい。また、山を手放したい人は多く、有効に活用してもらえるなら喜んでもらえると思う。活用してもらえるなら。

私が言いたいのは、山に所有権はあるもののその地域の「一部」であるということ。上記のような負の遺産を作り上げてしまったら、迷惑をかけるのはその山がある地域だ。
そこまで大ごとでなくても、例えば民家近くに木が植えてあり、大きくなりすぎて倒れそうで怖い、風で枝葉が飛んでくる、日が当たらないなど、どうにかしてくれというトラブルもある。

チェーンソーや重機を扱うには、安全講習を受けたり防護服を着用するなどの準備が必要となる。林業は労災が多い職種であり、ベテランでも死亡事故につながることがある。山を開拓するには技術面を含めて長期的に考える必要があると思う。もしくは林業事業体や造園業者などに依頼する方法もあるだろう。



とにもかくにも、山を買う前には一度冷静になって、半永久的に手をかけ続けられるのかどうかよーく検討していただきたい。
そのうえで山に興味を持ち、山に携わる人が増えると嬉しい。

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