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天気予報今昔メモその3:観天望気

長い付き合いの天気予報だが、今は「一時間後に雨が降ります」とスマホに通知がくる時代だ。気象庁のスパコンは、毎秒1京8千兆回の速度で雨雲の動きを計算しているらしい。


では、天気予報がなかった時代まで遡ると、人々はどうやって天気を予測していたのか。

その方法のひつとに「観天望気」(かんてんぼうき)という、天気のことわざとして伝承されたものがあるという。
天気占いとも呼ばれたそうで、雲行きや風向き、動物の動きや景色の見え具合、星の見え方などから、直近の天気変化を予測していた。

農業や漁業をして暮らしていた当時の人たちにとっては、これだけが頼りで、あとは長年のカンと占いぐらい。
それだけに「観天望気」は日本全国のそれぞれの地方で独特の発展をし、多種多様なことわざを残したといえる。

それは現代にも引き継がれ、私たちにも馴染み深いものも多数存在する。「夕焼けは晴れ、朝焼けは雨」
「ツバメ(とんぼ)が低く飛ぶと雨」
「富士山がかさをかぶれば雨」
「山が青く見えると晴れ、白く見えると雨」
「星がまたたくと雨」
等々の言葉は、子どもの頃から自然のうちに感覚に取り込まれていて、それが後々の生活の中でも、無意識のうちに働くシーンが少なくない。
(もしかして、われわれ古い世代だけか?)
「暑さ寒さも彼岸まで」ならば誰でも知っていて、たいがいの人は寒暖の目安にしていることだろう。(これも温暖化により、いずれは死語?‥‥)

「観天望気」をひもとくと、思わず笑ってしまうようなものもある。
「猫が顔を洗うと雨」などは、ある程度は湿度との関係が覗えるものの、生き物としての猫の個体差がありすぎて、滑稽さがにじむ。
また「お茶が美味しいと晴れ」などは、まさにその日の朝の気分そのものではないのか⁈と笑いを誘う。(湿度が低いとお茶が美味しく感じるそうだ)
「朝の雨は女の腕まくり」は、どちらも大したことがないことを示すが、今や女の腕まくりも侮れない時代であるうえに、セクハラ発言とも言われかねず苦笑を呼ぶ。

一方で、しみじみとした風流もあって
「鐘の音がよく聞こえると雨」
「はこべの花が閉じると雨」
「くしが通りにくい時は雨」
等々は、郷愁と情緒を伴っていて美しい。

「観天望気」のことわざの数々は、必ずしも天気予報の役に立つとは限らないまでも、何かしらの科学的根拠はあって、なるほどと頷けるものが多い。

けれども、ここでひとつだけケチをつけさせてもらおう。
「煙が東にたなびくと晴れ」
こればかりは‶ホントかよ⁈″とツッコミたくなる。
だって煙がたなびく方向なんてね、地形や季節に左右されるし、周囲の建物の影響も受ける。このことわざが生まれた頃には、風向きに影響を与えるほどに大きな建物がなかったのだとしても、平地と山地や海辺などの条件の違いをクリアできるとは思えない。
その後、「気象衛星ひまわり」が鮮明な雨雲の動きを見せてくれるようになって、なるほど天気は西から東へと移動するものだと実感した。
しかし果たして西に高気圧があると、隣家の煙突の煙は東にたなびくのだろうか。今となっては煙突すら無くなって、このことわざを検証することも叶わなくなった。

そのような思いもあってか、ご当地ものの「観天望気」には共感を覚える。
「弥彦山が隠れれば雨」(新潟地方)
「粟島が小さく見える後は北風が吹く」(新潟粟島地方)
「増毛の岬がはっきり見える時はヤマセ(山風)」(北海道地方)
など、その土地それぞれに代々住む人々の暮らしが伝わってくる。

かく言う自分が住む地方にも
「大山に雲がかかったら、今日の午後は雨」
「大島が間近に見えたら、天気が崩れる」
など、馴染み深い「観望天気」があったのだ。
これらは生活に身近なうえにおおむね信ぴょう性があって、詳細な天気予報が届けられるようになった今日でも(オトナの間では)廃れることはない。ご当地文化のひとつと言えるかもしれない。

それにしても、古代より人はかくも詳細に自然を観察してきたものか、と脱帽する。
雲の種類の多種多様さは言うにおよばず、雷ひとつとってもそれが鳴る方向や時間帯、時期によって天気を読みわけたという。
そして様々な生き物の様子にも注意を払って分析しており、「観天望気」にはトンビ、モズ、カモメ、蜘蛛の巣、アリ、ハチ、渡り鳥、カエル、ミミズ等々おびただしい生き物が登場する。

その中でも
「カマキリが高い所に卵を産むと大雪になる」
これこそは格別で、それに気づいた人間もすごいが、大雪を予測していつもより高い所に卵を産むカマキリの方が、もっとすごくて神秘的ではなかろうか。



天気予報今昔メモ1~3で、いにしえから現在までの、天気と人間の付き合いをわたしの目線で書かせてもらいました。
最後までお付き合いいただきありがとうございます。


                                                        photo by 30 sunfish


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