能登半島地震その後、水道の復旧が進まないのは…

テレビ、ニュースなどもそうだが私の周辺の市民感情としても「能登半島地震の復旧・復興が遅々として進まない」という声を多く聞く。もはや被災地のみならず国民すべてが国や自治体の災害対応について不満や疑義を持っているようである。被災地の災害ボランティア登録の問題などもあるが、まずは言いたい水道復旧の問題▼全国各地の水道事業体の職員たちが被災地で奮闘する取り組みは、応急給水、漏水調査、復旧修繕対応など、水道に関連する被災地での任務は多岐にわたる。いまこの瞬間も自治体水道局などの職員が1日約500人以上が被災地能登半島で奔走・奮闘している▼「水道の復旧が遅れている」と発信するメディアの横で「それも事実」と受け止めつつも、今回の震災の特徴である土地の隆起や移動、液状化現象など、地下埋設としての復旧は難渋を極めていることについて、そこに視点が集まらない社会全体の水リテラシーの低さについて嘆きたい気持ちになる▼事件は常に現場で起こっており、現場の声を市民や議会や行政(政府)に広く伝える役割と責任が私にもあると思いながらこれを綴る。今国会の質疑などもぜひ注目してもらいたいが、今回の「水道復旧の遅れ」という問題は、どうやら「みんなに一日も早く蛇口の水を届けたい」という現場の仲間たちの奮闘とはまた違うところの『構造的課題』によるものである点が露見している▼ひとつは政府方針の行政改革のもとにある人員削減。地方自治体の水道職員はどんどん減らされ続け、いまや地方では一般行政職員との比較でも2倍ぐらいのペースで減員が進んできた。これは、政権与党の小さな政府への方向性であり、この政府方針によって総務省が各地方自治体に「職員を減らせ」と指示を出し、それを受けた地方自治体はとにかくやりやすいところから人員削減を行ってきた。水道現場などは、チームで仕事をする事も多くひとつの業務をアウトソーシングすると一気にひと班数人、大都市では十数人を削減(配置転換や退職不補充)などが可能となり、その数はどんどん減ってきた。また、水道が役所の総務的なエリアから遠い特別会計であると言うところも「とにかくあの辺から減らしていこう」というマインドが働いているのかも知れない。とにかく各自治体の水道職員の減り幅は、減っているといわれる他の一般部局よりも減っている▼こうした状況下にあって、今回の能登半島地震では「被災地への応援には行きたいが日常の事業運営も大変」というマインドが明らかに作用している。言われるがまま続けた水道事業の人員減は、もはや災害対応ができるというバッファを失い、他都市のケア(フォロー)など出来ない=自分たちの地域の災害時も助けてもらえないという、市民にとって劇的に不幸な袋小路に入りつつある▼過去にあった政府有識者会議で、「水道が経営できないような自治体は地方自治なんかできない」という有識者の発言もあったが、まさに水があるから地域が存在するのであり「水は究極の自治」である。いま水道職員を増やすことが困難であっても「これ以上は減らさない」という住民マインドや抜本的な取り組みは急務である。また、余力あるなら災害対策として他都市への支援も含めたさらなるアップデートが必要である▼そしてもうひとつは支援体制のあり方である。国は災害支援の在り方をこの間ずっと「プッシュ型支援で」と言いながらも、水道に関してはプッシュ型などとうてい不可能な今の構造である▼その構造とは、基本的には被災した自治体が日本水道協会に対して「私たちの自治体を支援してくれ!」と判断しない限り、全国の水道職員の支援は動き出さない。なぜなら、それぞれの地域で自治体運営とされる水道は、職員派遣についても「そのコストは誰が支払うの?」という課題があるからである。例えば今回の能登半島地震で九州や四国にある自治体水道にも応援要請が出たが、職員の賃金や滞在経費、給水車の燃料代、果てはスタッドレスタイヤ代などあらゆるものにお金がかかる。その査定や積算、支払うのは誰かなど細かな調整が自治体間で必要なのである▼被災自治体の要請にもとづくプル型ともいえる現状の支援体制は、この間の水道が地域のものである「自治体運営原則」の上に立った水道の文化ではあるが、前述の各地域自治体の人員削減や民間委託(運営)と相まって、地域任せの査定・清算体制は綻びを見せているのではないかと考える。これでは官であれ民であれ安心して支援体制に入れるはずもない。プッシュ型を束ねる体制づくりは国の重要な課題である▼今回、4月から水道行政の所管が厚生労働省から国土交通省に移ったが、その事を前提に国交省の舵取りを強めに被災対応が行われているようである。しかし、厚労省・国交省それぞれの文化の違いはそんな一朝一夕にうまく回るものでもないだろう。日頃は地域それぞれの違いある地方自治であっても、こうした災害時の水インフラの復旧・復興には、国の役割に期待する。いずれにしても被災地の一日も早い水道復旧に官民ともに専心するとともに、これら構造的な課題についてもダブー無しで住民と共有・追求していきたいものである。

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