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成功談は生存バイアスでしかないのか(映画も観た)

エベレスト食肉センターです。

今日は映画の感想を書こうと思うけど、映画の感想って観てない人にとってはどうでもいいので自分の話もします。
いや自分の話の方がどうでもだろうけど……笑

ごく自然に首を吊るしかない

映画「ショータイム!」を観たんだよね。
どんな映画かを簡単に説明しておく。

農場を経営するダヴィッドという男が主人公。
3代続くダヴィッドの農場だが、経営難で「あと2ヶ月」で借金的なものを返せないと他人に土地が取られてしまう。
他人に土地を取られる=首吊って死ぬこと
ダヴィッドは借金の返済を待ってくれと言いに行った帰り道、車をパクられ、あーあと思ってキャバレーに行ったところで、自分の農園にキャバレーを作ることを思い出す。

という話だ。

当然太字の部分は公式予告に書かれているわけがないのだけど、実際に2回首吊りのシーンがあって、僕はそれがかなり効いてるなと思った。

本編には全然関係ないから首吊りの話をしよう。
今作で書かれる「首吊り」は自然だ。全然大袈裟じゃないし、体感3分くらいで終わってしまう。
僕は首を吊ったこともないし、本気で死に挑戦したことがない……から、つまり、フィクションの死しか知らない。だから死って大袈裟なものだと思ってたんだけど、今作はさらりと「破産するならもう死ぬしかないな」が書かれていて勉強になった。

本当の意味で「死ぬしかないとき」のことがわかるので、観た方がいいと思う。泣かないんだそこと思った。

夢を追う映画に弱すぎる

コメディの映画だったのに、僕は情緒がぶっ壊れていることもあって結構ずっと泣いてたな。感受性がいいね、とか友達は言ってくれるけど、最近知りもしないプリキュアの変身シーンでも涙が出るから、普通に疲れてるんだと思う。

一瞬映画の話に戻る。
破産寸前の農家・ダヴィッドが目をつけたのは、都会のキャバレーで踊り子をしていた美女・ボニーだった。
必死に口説くしか……!というのは本筋の話なので、違う話をするが、ダヴィッドの口説き文句は「君には才能がある」「君なら(もっと大きなことが)きっとできる」なんだよな。

才能があるって地獄みたいな言葉で、僕がボニーだったら二つ返事でついていってしまいそうだ。
1億円あげるよとか、実は自分は有名アイドルですとか、そういうチェーンメールが来た時は何も思わなかったけど、才能がある!というメールが来たらちょっと分からないな。

才能ってなんだろうか。

僕は才能がある……とは思わないが、なんとか、口八丁手八丁で才能ある風に見せられやしないかと日々「才能があるんですよね、僕」という立ち回りをしている。なんとなくそうしないと、誰にも相手にしてもらえないような気がする。

才能って言葉を作った人、嫌なやつだ。

作中のデイビッドだって、ボニーに「才能がある」って言うけどさ、デイビッドには才能を見抜くことなんてできないはずなんだ、本質的には。彼は農夫で、ブロードウェイの演出家じゃない。でも「才能がある」って言えてしまうし、ボニーの心は動かされるだろう。

才能がある、という言葉は、君が好きだ、という言葉に似ている。

僕がアイラブユーを翻訳するなら絶対「君には才能がありますね」にする。全然嘘だけど。となれば才能があるんですよという顔をしている特に才能のない僕は「雰囲気イケメン」と同種なのか。
普通に嫌だな。

成功談は生存バイアスでしかないのか

ツイートもしたけど、先日「元小説家志望で将来的にノベルゲームを作りたい人」に会った。

彼は僕より若くて、しかもプログラミングができるときた。彼の物語は読んでいないが、社会的に見れば少なくとも僕より有能である。

彼が「いつかノベルゲーム作りたいんです」と言ったときに僕は沸き立ったし、彼が「昔書いてただけで最近は書けてないけど」と言った時首が壊れるほど頷いた。わかる。そして僕は「今からでも全然、やれるよ!」と言った。

今の僕は(儲けてはいないけど)一応シナリオライターをしているし、ゲームもおかげさまで(まだ世に出る形ではないけど)何とかしようとしてくれる会社の人たちもいる。
カッコの中が重大すぎるから誰にも自慢したりできないし彼にもしなかったんだけど、でも、あまりにも僕に経歴が似ているから、やれるよー!あきらめちゃだめだー!やろうー!って気持ちになったんだけど、その時に言われたのが

「それは生存バイアスだと思います!」

……だったんだよね。

……僕って今生きれてるか!?

実情はゾンビどころか死にかけの有精卵なので、夢を追う若者にはそう見えるのかと思って驚いてひっくり返りそうになった。

僕からすれば「僕ぐらいの存在にならいますぐなれるよ!やろう!」と思って話したことで、返す返す言いたいのは僕が若者に自慢話をするような自信を持ち合わせていないということなんだけど、
……であれば単に、成功(だと思うこと)は意外と近くにあるんじゃないかと、僕は何となく思ったりしたよ。

今サラッと流し読みした(だけだから違ったら申し訳ない)けど、映画「ショータイム!」に出てきた農場キャバレーも、2016年にできたものらしい。
であれば、まだ開業7年で、わかんないけど本人はまだ頑張りどきだと思ってるかもしれない。
正直農場もキャバレーもよくわかんないけど、まあ「死んじゃおうと思ったところから立ち直った」部分を成功談だとするとわかりやすいだろう。

僕はまだ死んじゃおうと思ったこともないし、当然立ち直ったこともないけど、これから先「死んじゃおうと思った」ときにこの映画を思い出すだろうし、その時は「いやあれは生存バイアスだ。立ち直れるわけない」と思うのかもしれないな。

でも、やる気を出せば意外と無理じゃないことなのかな。若者から見たら僕は稀有な生き残りだけど、実際は死にかけの有精卵なわけで、映画館で華々しく語られてた農場キャバレーも、まだまだ頑張りどきかもしれない。
手を伸ばせば全然届くことなのかもしれないな。

まとまらなくなってきた。
でも、つまりね、僕はこの映画と、突然出会った謎の青年のおかげで、なんとなく、世界に溢れる成功談をもう少し身近に見られるようになった気がする。

最後に自分語りを畳み掛けるが、
別の友達と他のことを頑張っていたとき「エベはすぐ諦めるための理由を探す」と嘆かれたことがある。
その友達はいつも「あの人たちはすごい!追いつこう!」という話を僕にした。僕にとってはその「あの人たち」はいつも雲の上の存在で、僕らがどんなに頑張ったところで追いつけないと思っていたから、その友達を強く否定し続けたし、その結果傷つけてしまった。

本当に嫌な思い出だな。
……でも今思えば、追いつこうと思えば追いつけたのかもしれない。それこそ生存バイアスだとか、幸運だとか、言い訳ばかりしていた。

怖かったんだと思う。もしかしたら手を伸ばせば、指先くらいは届いたかもしれないのにさ。

今日はそんな日記。

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