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『無力な神様のはなし』感想〜ああそうか、これは〜

サークルHave bean、まめびーんさん著のつづさや小説『無力な神様のはなし』を読了しました。

どうしても技法的なところの感想とお話の感想を混ぜて書いちゃう悪癖があるので今回はきっちり分けて書いてみようと思います。今回の感想は1500文字くらいでさらっと終わるはず。


◆ペース配分

まず技法的なところ。
今作ですが、とんでもなく分厚いです。
1日あれば余裕で読み終わると思ってたらまさかの数日掛かりましたわ……。何万文字の分量なのか知らないけど300ページとちょっとあるらしいです。

そんな長編小説で個人的なあるあるなのが「この話、本当に面白くなるの?」問題。要はタメが長すぎて読者が飽きてしまうって問題が存在してると思うんですよ。私に堪え性がないと言えばそれはそうなのかもしれませんけども。

その点、今作は上手い事やるもんだなぁと読んでいて唸らされました。常に目の前に「謎」がぶら下げられているんですよね。読者的にはそれが知りたい。

表紙を飾るのは村野さやかなのにまさかの村野不在で進む本編。「おいおい村野はまだか」と思いながら読み進めている時点でもう作者の術中……。「村野さやかの胸中」とか「初代のカミサマ」とか読者の興味を惹く謎が隠されたまま進むので楽しく読み進めることが出来ました。隠しっぱなしにしておくとそれはそれでダレる気もしますが、謎の開示と新たな謎の提示の配分が絶妙で楽しく読むことができました。拍手!

◆お話の感想

カミサマのファンのやつら怖すぎない???
特に意味もなく交通事故に巻き込まれてる梢先輩が不条理すぎて笑ってたんですが後からお出しされた事故の真実を見て真顔になりました。ニンゲンコワイ。

アイドルという偶像、ある意味で一種の宗教を扱ったような作品であり、一見して私たちには関係無い話のようにも思えますが、『みんなの求める私を演じる』って点で言えば大なり小なり身に覚えのある話なんじゃないかなーと思いました。

みんなに喜んでほしくて
みんなに嫌われたくなくて

大体の動機としてはこの二つのどちらかだと思うんですが今作の村野さんは……どちらかといえば後者かな……。嫌われたくないというよりかは失望されることが苦手な気がします村野さんは。

実際問題として望まれるキャラを演じ続けて心身に異常をきたす人、多いらしいのでお気を付けください。

なんの話だ。

そんな村野さんの心の拠り所が綴理ちゃんのはずなんですけど今作のつづさや、忙しいのを理由にほとんど会話をしません。会話を!しろ!!!

お互いがお互いを気遣うからこそ起きたすれ違いではあるんですけど今作の事件にまで発展しちゃうし意外とこの二人……面倒臭いのかもしれない。(今更気付いた)

ラストで結局死ぬのは辞めちゃうし、かと思ったら結局保留しただけらしいし、今作って珍しく主人公にほぼ変化の無いお話なんですよね。おそらくこの保留も無期限延期みたいな物だろうし。

あとがきで「村野は情けないところがある」(意訳)って書かれてるんですけど、そういう話が書きたかったのであればなるほど今回のラストは情けないと言えるかもしれないし、なによりそれこそが『人間臭さ』なのかなとも思います。そんな子が多くの人間のカミサマになるのはやはり荷が勝ちすぎた。綴理ちゃん一人のカミサマになるくらいがちょうど良いのかな、と。

◆最後に

読んだお話を総括して、一言でいうと「**!」って言って締めたいんですが、今作って結構型にハマらないというかなかなか落とし所が見つからなくて。「祭り上げられてる人も結局一人の人間なんだよ」とか先に言った「キャラを演じる」だとか「死にゆく人に残された人達」とか色々あるんですけど一言で表すのは難しい……。

唸りながらふと傍に置いてあった今作に目を向けて思いました。

ああそうか、これは


『無力な神様のはなし』なんだと。


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