ムダ毛と私

私は子供の頃から毛深い。
初めての美容室に行くと大抵の美容師さんから半笑いで「毛が多いですね」と言われる。
梳いても梳いてもなかなか毛量が減らないので、いつも申し訳ない気持ちになる。

体毛も例外ではない。
今のように小学生の頃から脱毛するような時代ではなかったので、体育の時間は毛深い自分の足や腕を見て憂鬱な気分になっていた。
毛量も色素も薄い同級生を羨ましく見ていたものだ。

中高生になると剃ったり抜いたり除毛したり脱色したり…毛深いままにしている事は恥ずべき事かのようになった。

「毛にビールをかけたら色が薄くなるらしい」と聞いて母に頼み洗面所で両腕にビールをかけてもらったこともある。
全然変わらなかったけど。

脱色クリームや除毛クリームは臭いし肌が荒れる気がするし、毛を抜くのは地味に痛いし…。

美容とは我慢と忍耐の連続ということを身をもって知る思春期。

大学生になって、バイト代で大手家電メーカーから発売された脱毛器を購入した。
仕組みは原始的で、機械が回転しながらムダ毛を巻き取るように毛を抜いていく。
ガラガラガラガラ…
田んぼの稲刈り機によく似ている。
そして容赦なく痛い。

ＣＭの綺麗なお姉さんは微笑みながら脱毛していたけど話が違う。
全然優雅ではない。
成人に近くなって理想と現実を知る。

ＯＬ時代はレーザー脱毛。
綺麗なオネェさんから何十万もするような全身脱毛を薦められるが、色々怖くて「とりあえず…」と一番リーズナブルな脇毛脱毛を契約する。
バチン！バチン！…
噂通り、輪ゴムを当てられるような痛さ、我慢はできる。
これを毛が薄くなるまで…。

しかし結局、脇しかやらなかった。
脱毛サロンの綺麗なオネェさんによる営業トーク、趣味嗜好が全く違う人と噛み合わない会話をする辛さが、私の脱毛欲を上回ってしまった。

そして今…

私はムダ毛に白旗を上げた。

今は共生の道を歩んでいる。

最近、腕毛には愛着すら感じている。
あれほど疎ましく思っていた筈なのに、今は外の世界から私をやんわりと守ってくれるバリアように感じている。

脚毛は脇毛の怨念が乗り移ったのか、オッサンのすね毛のような毛が数本生えてきた。
それを伸ばして外出できるほどのメンタルはまだ持ち合わせていないので、面倒だが抜いている。

気がつけばレーザー脱毛で完全になくなった筈の脇毛も、数本生えてきた。
中年になって体の神秘、人間の治癒力に驚く。

ちなみに今は股間の毛も脱毛する時代らしい。
無ければさぞスッキリするだろうなとは思うものの、今のところ着手するつもりはない。
しかし仲間内で「介護してもらう時に迷惑にならないよう、今のうちにやった方がいいらしいよ」と話している人もいた。
将来の介護のために、お金を払って見ず知らずの綺麗なオネェさんに股間を披露する…
こんな悲しい脱毛があるだろうか。
それなら私は老後に備えて足腰を鍛える方に全振りしたい。

夏場に腕毛を生やしながら半袖で堂々と歩いている中年女性がいたら、それは私かもしれない。