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私が葬送のフリーレンに惹かれる理由

先日昔お世話になった方から突然電話があった。それは私の古い友人の訃報を知らせるものだった。近年は疎遠になっていたが彼は私が演奏活動を始めた時の伴奏者で自分の中では旗揚げメンバーである。彼の訃報に想いを巡らせていると何故か余り関係が無さそうな葬送のフリーレンの事を書きたくなった。

アマゾン・プライムに加入し続けていると見なきゃ損的なセコい感覚は常にあるのだが今更流行を追うでもなしサムネで何となく気になったのはクリックしてみる。フリーレンを観たのも何を期待するでも無くきっかけはそんな感じだった。原作は未読。50歳でアニメ観てるとか子供の時は微塵も思いはしなかったけど。

2周目を観ている時だったかにふとある事に気がついた。2周目観る時点で既にかなり魅了されているのだが現在視聴可能な28話中18話辺りから登場人物が一気に増えるのだが彼らが夢中になっている魔法を自分が夢中になっているものに置き換えると登場人物が自分の周囲の人々に重なって見えて来るのだ。

高校生の時にギターを始めてバンドらしき事もやったが6年目くらいに自分の力量や西洋音楽に対して行き詰まりを感じた。そして7年目にインドに行った時にインド音楽に出逢った。そこで先生に師事する事を初めて経験した。私はギターからシタールに転向して今に至っている。インド人、日本人、その他の国の様々な志を持つ個性的な人々と会っては別れたが彼らは一貫してインド音楽に惹かれて夢中になっていた。その有様が魔法協会の試験に挑む葬送のフリーレンのキャラクター達に重なって見えて来た。

この音楽を学ぶには一度の人生では足りないとインドの演奏家達はよくインタビューなどで口にする。同様の台詞はフリーレンには無いが「500年以上生きた」とか「千年以上生きた」とか「この歳でどんな鍛錬を積んで来た」とか「人生を捧げたと言うのは嘘では無さそうだ」いう台詞はあるから魔法を習得するには人生をかけて挑む認識はインド音楽のそれと変わらない。

人間は500年や1000年かけて何かを修得する事は当然出来ないのだけど、そこに1000年以上生きる長寿のエルフという架空の生物を主人公に宛てた世界観と物語は古典的な芸の修得に関わる者であれば惹かれる人は多いのでないだろうか。

フリーレンは時々人間に愚痴る。

「時間の無駄だからね。色々教えてもすぐ死んじゃうでしょ。」

かって一緒に旅をした仲間の一人が答える。

「フリーレン…人との関係はそうゆうものじゃない。」

「人生ってのは衰えてからの方が案外長いもんさ。」

人間の感情や気持ちを察するに疎い筈のフリーレンが老いて天寿を全うした仲間勇者ヒンメルの死に涙を流す。そこからフリーレンはもっと人間を知ろうとする意識へと変化して行く。

フリーレンと同じエルフの大魔法使いゼーリエは愚痴る。

「人間の弟子なぞ取るものでは無い。」

「だが不思議なものだ。気まぐれで取った筈の弟子なのにひとりひとりの性格も好きな魔法も鮮明に思い出せる。何故か私は弟子を取って後悔した事は一度も無いんだ。たとえ歴史にその名を残せずとも。」


(人間の弟子)の部分を(外国人の弟子)にしたらインド人演奏家の公に出来ない愚痴みたく聞こえる。しかしその後の台詞は自分の師匠が呟いたものと同じ内容だった。

一番下の自分から遡って師匠→師匠の師匠→師匠の師匠の師匠と動画を貼ってみました。時間の許す方は演奏をお楽しみ下さい。


「だらだら生きて来ただけだよ。」

そうフリーレンは呟く。 


私もだらだら生きてます。先日退職もしたので間違いありません。


フリーレンはこうも呟く。

「魔法は探し求めている時が一番楽しいんだよ。」

「私1人の力じゃ無いよ。運が良かった。」


私の魔法は正しいものであるのか果たして本場でも通じるものであるのかは未だにはっきりと分からない。しかし結局他にやりたい事も志も見当たらない自分はもうそんなに夢中では無いのだけど、だらだらとこの道を歩いて行きそうだ。私が勇者ヒンメルみたいな人に出会う頃には老いて杖を突き頭髪も無くなっているかも知れないが。

花畑を出す魔法で撮りました。


人生は思ったよりも短い。
彼の死によってまた一層その思いが強まった。いつかまた彼と一緒に演奏出来るだろうと思っていた(いつか)はもう来ない。(いつか)なんて相当執着して頑張ってロープを手繰り寄せないと来ないのだ。

もう(いつか)って使いたくない。
(いつ?)にしよう。


Y.O 君

君が言った「俺働いてる場合じゃないんだよ」ってのは今でも自分の中で名言だ。君はたまに何も言わずに居なくなる癖があって時々周囲の人を困らせていたが結局変わらないな。こんなに早く行ってしまって私は正直少し怒っている。でも最初に組んだタブラ奏者が君で良かった。力を貸してくれてありがとう。

R.I.P


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