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短編小説「朝の約束」


朝日が昇る前、美咲は目を覚ました。時計はまだ5時30分を指している。窓の外は薄暗く、世界はまだ眠りの中にいるようだった。
彼女はそっとベッドから抜け出し、スリッパを履く。廊下を通り過ぎる時、隣の部屋から父の寝息が聞こえてきた。美咲は微笑む。父の朝は、いつも彼女より少し遅い。
台所に入ると、昨夜のコーヒーの香りがかすかに残っていた。美咲は新鮮な豆を挽き始める。その香りが徐々に広がり、眠気を吹き飛ばしていく。
コーヒーを入れながら、美咲は窓の外を見た。庭の木々が朝露に濡れ、東の空が少しずつ明るくなっている。今日も良い天気になりそうだ。
ホットコーヒーを片手に、美咲はベランダに出た。朝の清々しい空気を胸いっぱいに吸い込む。遠くで小鳥のさえずりが聞こえ始めた。
美咲は目を閉じ、深呼吸をした。今日は大切な日だ。長年準備してきた美術展の開催日。緊張と期待が入り混じる。
「美咲、もう起きてたのか」
振り返ると、父が立っていた。優しい笑顔で娘を見つめている。
「おはよう、お父さん。今日は早いね」
「ああ、娘の大切な日だからな。朝食の準備を手伝おうと思って」
美咲は胸が温かくなるのを感じた。父の支えがあったからこそ、ここまで来られたのだ。
「ありがとう、お父さん」
二人は並んで朝日を眺めた。空が徐々に明るくなり、新しい一日の始まりを告げている。
美咲は深く息を吸い込んだ。今日という日を、全力で生きよう。そう心に誓った。

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