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アイドル界に一石を投じよう(新刊『夢はないけど、成功したいです』より)

アイドル界に一石を投じよう

 これまでSHINeeや2PM、SEVENTEENやNCT、OH MY GIRLなど、さまざまなアーティストに会ってきた。そう、韓国でアイドルと呼ばれている人たちだ。実をいうと『文明特急』は当初、アイドルに特化した番組ではなかった。もともとは「新文明を伝えていこう」というコンセプトのもと、既成の概念を打ち破り、新しい文明にスポットライトを当てていこうと製作をスタートした番組だ。そんな『文明特急』が「私たちがアイドルの企画をやらなければ!」と思い立ったのには理由がある。

 ある日の仕事帰り、今まで一度も会ったことのない、とある新人アイドルのメンバーとエレベーターが一緒になった。するとそのアイドルは突然、私に90度の深々としたお辞儀で挨拶をしてきたのだ。あまりにも急だったので及び腰で応じてしまったけれど、私はその時、なんとなく違和感を感じた。まるでアイドルなら皆、放送局の関係者に会ったら90度で挨拶をしなければいけないというトレーニングでも受けているかのようだった。

 その時から私は、90度のお辞儀について問題意識を持つようになった。どちらか一方だけがする挨拶は、礼儀とはまた別の問題である。もっと言ってしまえば、強者が権力で弱者を押さえつけるという関係へ進展しかねないのだ。一瞬だったけれど私はその時、やり場のない憤りを感じた。そしてそこには、長い間蓄積されてきた既存のルールがあると思った。

 正直私は、今までアイドルを「ただ歌って踊るだけの人間」としか見ていなかった。メディアがアイドルをそのように映し出し、ほとんどの視聴者はその姿をそのまま受け取るしかなかったのだ。だけど私がこの仕事をする中で会ったアイドルたちは、華やかというより孤軍奮闘する駆け出し社会人の姿をしていた。そう感じて以来、アイドルが出演する番組を以前とは違う視点で見るようになったと思う。例えば音楽番組では、カメラに映っていなくても身体が壊れそうなぐらい一生懸命踊るメンバーが目に留まるようになった。学生時代には気づけなかった部分だ。

 彼らはK-POP分野で専門的な教育を受け、進化し続けている職業人であり、専門家として評価を受けるべき存在なのである。考えてみれば、私と同年代の第2世代のアイドルたちは、私が高校生の時からすでに社会人として必死に働いていた。サラリーマンでいう、平社員からひとつ上の代理に昇進するために力を注ぐ一番苦しい時期を、とても若いうちから経験していたのだ。私が学生時代を共に過ごしてきた数々の歌は、あの時に第2世代のアイドルたちが社会で一生懸命戦い、築き上げてきた努力の結晶なのだと思った。大人たちから聞いていたアイドルに対するネガティブな意見や偏見のせいで、認識することができなかった価値である。

 学生の時には絶対感じられなかった、駆け出しの社会人として働き始めてようやく分かるようになったことだった。そしたら私たちの番組では、アイドルをどのように描き出していくべきなのか……真剣に悩んだ。その結果、職業人としてのアイドルの価値を視聴者へ伝えることを最優先にしようと決めた。


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