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在庫配置の戦略について

今回は在庫配置・拠点ネットワークについて考えてみたいと思います。

まず最初に在庫配置の戦略は何によって規定されるのでしょうか。

世の中には様々な考え方が存在していますが、私はサプライチェーンの最大の屋台骨である"輸送能力"によって規定されると考えています。

明日欲しいんだけど。むしろ今日欲しいくらい。

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今ではAmazonで買い物をすると、早ければ当日、Prime会員なら基本的に翌日には商品が手元に届く環境となりました。

この様にAmazonがロジスティクスに力を入れている事はもはやビジネスに携わる人なら誰でも知っています。

彼らの掲げた理念である

"The most customer-centric companies in the world"
"地球上で最もお客様を大切にする企業であること"

を具現化したものと考えられ、ロジスティクスへの投資は

"お客様が欲しいモノを、欲しい時に提供するための設備投資"

という投資優先順位としても最上位であると読み取れます。

ここで最終配送先を最終消費者までと捉えるか、流通企業までと捉えるかでややニュアンスは異なりますが、大きな考え方としては同一です。

お客様からの注文で「いつまでに、どの商品を、どの位のボリュームで必要か」が事前に分かっているものはほとんどありません。

ほとんど分からない状態で即納するためには、90%以上の確率で当たる精度の需要予測を実現するか、在庫でバッファを持たせるかの二択が基本戦略です。

物理的なモノを扱う企業は後者の在庫でバッファを持つ事で対応をしている場合がほとんどであり、在庫戦略の中でもこの不確実性が一番のボトルネックです。

前回の記事で説明したブルウィップ効果の吸収はこの不確実性の吸収と言えます。

ここでケーススタディです。

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ケーススタディ:インスタントラーメンの特売

スーパーで売られているインスタントラーメンを題材に在庫戦略を考えてみたいと思います。

まず平時においては、1店舗当たり1ケースのインスタントラーメンが売れているとします。また、サプライチェーン上の在庫はトータルで36日分とします。

在庫戦略1

ここで、急に気温が下がったり、特売が想定以上の販売となって急に発注が増えた場合を考えてみます。

在庫戦略2

平常時の5日分の販売となった場合、小売店の転送では欠品が発生します。その不足分を補うために、小売店は配送センターへ欠品分を含めて追加発注します。

しかし、配送センターも在庫を潤沢に持っていないため、こちらでも同様に欠品が発生し、その分も含めて中規模DCへ発注します。

この様に下流での販売の変動が上流に遡っていきますが、物流の輸送能力にも限界があるため、十分な安定在庫を供給するまでに時間を要してしまいます。

安定供給に時間を要するだけ、店頭では欠品の売り損じによるチャンスロスが拡大し、折角の売上増加のチャンスを逃してしまうだけでなく、お客様の不満にも繋がってしまいます。

仮に相当物流能力に余剰を抱えている会社があれば上記の販売のブレも吸収できますが、現実的にはアップサイドリスクに対してそこまでの固定費を抱えるビジネスは存在しないかと思います。

当然全体の在庫数を増やせば増やすだけ欠品リスクは減らせますが、それでは相当額のコストアップが見込まれますし、すぐに運べるかは別問題です。

ここでは全体の在庫数は維持する事を前提として、販売の波動を吸収するための在庫戦略を考えたいと思います。

どこに在庫を配置すべきか?


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販売の予測が困難であるため、必ずサプライチェーンに変動は発生します。輸送能力が限られており、特に遠方の工場や物流センターから運ばなければならない場合は尚更対応が遅れてしまいます。

ですので、サプライチェーン上のどのポイントに在庫させるかが重要な判断となります。

ここでは小売店のバックヤードには特に限りがあるため、その手前の配送センターまでを想定しています。

その条件下においては、小売店の1つ手前の工程である配送センターに在庫させる事が最も波動吸収力が出てきます。

在庫戦略3

ここで問題となるのは、配送センターのキャパシティも小売店のバックヤード程ではないですが限りがあるため、場合によっては拡張移転が必要となる事です。

好立地物件がある場合は拡張移転し、上流の物流センターを縮小移転するという戦略をとることも可能になります。

ただ、現在の首都圏近郊の様に高止まりした倉庫需要の環境下においては、すぐに好立地物件が出てくる可能性は低いでしょう。

次のパターンは更に1つ手前の中規模DCに在庫させるパターンです。

在庫戦略4

配送センターに在庫する戦略に比べて変動に対する瞬発力は落ちてしまいますが、中規模DCは複数の配送センターの在庫を抱える役割を持っているので、対応範囲が所管の配送センター数まで広がります。

各配送センターを増強する事に比べて中規模DCは設置数自体は少ないと思いますので、仮に拡張移転してもコストアップの抑制が可能となります。

以上がブルウィップ効果も踏まえた在庫配置戦略です。

ただし、トップメーカーかつ市場シェアが90%近くあるようなケースにおいては流通側への交渉力が強いため、ここまでコストをかけて変動に対する瞬発力を強化するという判断には至らないかもしれません。

あくまで、その企業の市場におけるポジションがあり、さらに全社戦略があり、その後続として初めてサプライチェーンにどの程度コストをかけ、どの程度の供給能力を有するかを決める事ができます。

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重要なのは、"サプライチェーン部門の戦略を策定しようとしない事"です。

策定すべきなのは、"企業としてのサプライチェーン戦略"です。この点を勘違いしてしまうと部門最適になり、かつ全社で見た場合の与件・前提条件が違う事から策定した戦略を一から作り直さなければならない場合もあります。

当然他部門にも同様の事は言え、例えば営業部門が策定すべき戦略は"営業部門の戦略"ではなく、"企業としての営業戦略"です。

ロジスティクス領域は機能分担会社を設立して任せっきりになっていたり、外部委託先である3PL業者に丸投げの企業もあると思います。

そのため、各企業の事業戦略を見てもマーケティングや営業に関する内容ばかりである事が多いのだろうと推察します。

次回は自身が経営企画部門での全社戦略策定業務を通じて得た、サプライチェーン部門が社内でどの様に合意形成していくべきかの知見について記載してみたいと思います。


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