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かけら

「かけら」青山七恵

自分の家族の「外」の姿を想像したことがあるだろうか。家庭で見せる「内」の姿と、社会で過ごす「外」の姿。誰しもが内と外では違う自分を持っているし、自分の家族の外の姿を知ることはなかなか難しい。

「かけら」の主人公・桐子の父は、普段は頼りない、内気な性格。大学生の桐子は、そんな父とともに渋々、さくらんぼ狩りにでかける。
桐子は通っている写真教室で「かけら」というテーマの課題が出されていた。課題のため、桐子はサクランボ狩りの道中で「かけら」を探す。
そんな中ふとしたときに、父が人助けをしている姿を何度か見かける。普段は頼りない父が、周りに助けを求められたり自ら手を差し伸べたりしている。今まで見たことがなかった父を見た桐子は、見てはいけないものを見てしまったような感覚に陥る。
さくらんぼ狩りの帰りのバスの中で、桐子は自分が撮った写真を見返した。美点がないかと何度も見返すと3周目に、さくらんぼの木を囲む周りのおばさまも目に入れず、どこか空中を見つめている父の横顔を見つける。

じっと見ていると、わたしは昔から父をちゃんと知っていたような気がしたし、それと同時に、写真の中の人はまったく見知らぬ人であるようにも感じた。
青山七恵「かけら」

多くのひとは家族と長い時間を過ごすので、良い面も悪い面も知り尽くしたと思い込む。それは私自身にも言えたことで、自分の中でその人を決めつけたりフィルターをかけてしまっていたりすることさえもある。
でも自分が見ている家族の姿は一面的なものなのかもしれない。桐子のように、ふとした時に普段とは全く違う家族の姿、かけらを見つけることができる。それは家族に限ったことではなく会社の人や友人にも言えたことで、周りの人の「かけら」を見つけることが、人を本当の意味で「知る」ということのようにつながる気がする。そしてそのかけらは今まで見落としていたのかもしれないし、新しく拾い上げるものなのかもしれない。


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