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エビデンスのある療育ーTD準備編

はじめに

エビデンスのある療育を紹介していく本シリーズ今回は時間遅延法(TD)です。

TDはプロンプト依存、つまり何かの行動をする際に必ずプロンプト(補助)が必要になってしまっている状態を防ぎ、自立して実行できるようにしていく上で有効な方法です。強化、プロンプトと組み合わせて使用されます。

時間遅延法(TD)の概要

TDは児童に何か教えていく際に、プロンプト依存にならないような形で、プロンプトを組み込みます。またTDを使用する際には児童が対象行動をする前にコントロールプロンプト(児童が必ず対象行動を実行できる強さのプロンプト)を使用して、エラーレスな学習を心がけます。

Constant Time Delay(恒常的な時間遅延法)

対象行動をするように合図した後、決めた時間だけ待ってからプロンプトを提示する方法です。学習の開始から最低二回のトライアルの時には遅延なしでプロンプトを実施しそこから、定めた時間(3〜5秒)だけ待ってプロンプトを提示するようにします。

Progressive Time Delay (漸進的な時間遅延法)

段階的にプロンプトを提示するまでの時間を伸ばしていく方法です。初回は遅延なしですぐにプロンプトを提示しますが徐々にプロンプト提示までの感覚を伸ばしていきます。ただし、どれだけ伸ばしても10秒が上限です。

アカデミック、言葉、社会性、運動、遊びといったスキルの習得の際に使用されます。また広範な状況で使用するスキル(例:授業中手を挙げてから発言する)を適切に般化させたい時に有効です。

科学的に効果があると認められた領域

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TD準備ースキルセットの把握

TDを適切に実行できるようにするためには、事前に必要となるスキルを児童が持っているか確認する必要があります。

・合図に反応することができるか?

セラピストが何か合図を出したときや、注意を獲得しようとした際に、児童がそれに反応することができるのか確認する必要があります。

・待つことができるか?

4秒程度待つことが可能か確認する必要があります。特にCTD(決めた時間だけ遅延する)を使用する場合に、児童が正しい反応がわからない時には所定の時間を待つ必要があるため、きちんと確認する必要があります。

・真似することができるか?

何かを学習する際に、まずは他の人がやっていることを真似すると言うプロセスが採用されることが大変多いです。今回の学習プログラムに何かを真似して学習する工程が入っている場合には事前に真似することが可能か確認します。

・一人のときや小集団でいる時に座っていられるか?

ある活動に従事している中で、TDを使用する際にTDが使用されるタイミングまで活動に従事し座っていることができるか確認します。大体5〜10分程度座っていられることが必要です。

・強化子に反応して行動の生起率が高まるか?

過去に適切な強化子を使用して強化を行なった際に、対象行動の使用頻度が向上したかどうか確認します。(強化、強化子の有効性の確認)

・指示に応答することができるか?

ごくごく簡単な指示や、手順が一つしかないシンプルな指示に対応することができるか確認します。

上記の事前に必要なスキルを持っているかどうかを確認するには、普段の生活を観察して確認する方法が比較的簡単です。また観察を通じていずれかのスキルを持っていないと判断できる時には、TDが有効に機能しにくいため、他のエビデンスのある方法で介入することを検討する必要があります。

TD準備ー先行刺激と合図の特定

教えたい行動が発生するきっかけとなる物、事象、アクティビティなどがなんなのか特定します。

例えば、友達に挨拶すると言う行動が学習の対象となる行動の場合には、そのきっかけとなるのが友達を見ることが先行刺激になるかもしれません。

また対象行動をする合図となるものが何か、も特定します。例えば図工の時間には机の上に図工に必要なセットを置いておくことが、その後どのような活動をする必要があるかの合図として機能するかもしれません。

それぞれの学習児に合わせて何が先行刺激、また合図となるのか事前に特定しておきます。

TD準備ーコントロールプロンプトの設定

対象スキルを学習していく上で使用するコントロールプロンプトを特定します。ジェスチャー、音声、視覚、モデリング、身体いずれかのプロンプトをコントロールプロンプトとして使用することができますが、選択する際には確実に対象行動が実行できるプロンプトの中で一番制約度合いの弱いプロンプトを使用する必要があります。

例えば対象行動が、音声プロンプトでも身体プロンプトでも確実に実行できる(コントロールプロンプトとして機能している)場合には音声プロンプトの方をコントロールプロンプトとして使用します。

プロンプトに関してより詳しい内容はこちらをご確認ください。

TD準備ー強化子を選択する

正反応を強化する際に使用する強化子を選択します。実際に学習する行動と児童にとって適切な強化子を選択する必要がありますが、同時に強化子がより自然なもの(例:社会的強化子など)である方が望ましいため、もしその行動に自然に付随する結果が強化子として機能する場合にはそれを用います。

強化に関してより詳しい内容はこちらをご確認ください

TD準備ー使用できるタイミングを選択する

TDは普段の活動の中に組み込むことができる介入方法です。対象行動やスキルが普段の活動の中で使われるものの場合には、既存の活動の中で活用できるシチュエーションがあればその中で実施できないか検討します。

利用できるシチュエーションの例

・読書の時間
・プリントを一人で解く時間
・グループ学習
・ペア学習
・手を洗う
・トイレに行く
・上着をきる

必ず1日の中に学習機会を最低一つ設けます。また学習機会の中で、何回トライアル(練習)を実施できるのか、すべきかを児童の状態や対象行動の性質に基づいて決めます。

個人ワークや小集団の中でTDを使用する際には一つの機会に対して5回トライアルを実施できれば十分です。また連鎖的な活動(手を洗う等)や何かしらの文脈の中で起きる行動(学校で友人に会った際に挨拶する等)の場合には4回トライアルを実施できれば十分です。

もし児童が新しいスキルを学習する際に、比較的多くの時間を要する場合にはそれに応じてトライアルの回数を増やします。

TD準備ーCTDかPTDかどちらを使うか決める

冒頭で簡単に説明しましたが、TDには2つの種類があります。恒常的な時間遅延法(CTD)と漸進的な時間遅延法(PTD)の2つです。いずれの方法も有効ですが、どちらが実施しやすいか、また児童にとって学習しやすいか判断して用いる方を決めます。

CTDの場合は、まず遅延なしで最低2回トライアルを実施し、そのあとで遅延ありのトライアルを実施していきます。

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PTDの場合もまず初回は遅延なしでトライアルを実施します。コントロールプロンプトを提示した後の待機時間はあらかじめ定めておきます。

遅延ありトライアルに移行した後は、合図を出した後に反応を待つ待機時間を段階的に伸ばしていき、最終的にコントロールプロンプトを提示した後の待機時間と同じ間隔にします。

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まとめ

簡単に、TDを使用するまでに必要な準備に関して紹介させていただきました。有効に実行するための前提条件が結構あるのと、実際に遅延させるのが若干テクニカルですが、追加で必要なものもほとんどないので、より普段の活動を活用していきたい場合には十分役立つかと思います。

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