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ただひとつ彼らに届けたかったこと。この大きな経験を人に誇れるものとして持つのではなく、誰かを助けるために持っていて欲しい。

MOUTNAIN BIKE JORNEY
8/3 DAY14 最終日 富士登山


最終日は12時半起床。他の子たちも起こしたらすぐに起きだしてきた。
昨日は眠れたんだろうか。僕はいけると思っていたけど、やっぱりこのところの咳のせいなのか呼吸が浅かったんだろう結構頭がチクチクする感じ。

しっかり深く呼吸しながら各自の服装と注意事項を言って歩きはじめた。富士山頂への登山道は登る人たちのヘッドライトで光の筋のようになっている。そして見上げた空には天の川。

去年に比べたら寒さもましだ。
寒いことは寒いけれども体の芯から冷えてしまうような怖さはない。
しかし○○は足が痛い、○○は気持ちが悪いという。さらに。

20分ほど歩いて最初の休憩というタイミングで何か行動食を食べようということになった。携帯食を持ってくれていた○○に声をかけると、何度もリュックの中身を出したりしまったりしながら焦ってる。どうやら宿にそのまま忘れてきてしまったようだ。彼らを置いて、僕はひとり登ってきた道を戻る。こんなときこそゆっくりと呼吸をして意識を整えながら。


彼の荷物はそのまま僕らが寝ていた布団の上に置いてあった。
戻るとほかのメンバーは誰かが持っていた別のお菓子を分け合って食べていたようだ。少し食べたことで○○の気持ち悪いのもマシになってきたよう。声を出せるようになってきた。


一歩一歩とゆっくり登る。誰も置いてけぼりにならないように。
少し広がったところで座って休んで甘いものを食べながら。
○○もゆっくりだけれど確実に登れている。
うん、だいじょうぶ。きっとだいじょうぶ。

9合目のところで4時をまわった。
最初何度も紺を重ねたような深さに星が浮かんでいた空はすっかり青っぽくなって地平線はオレンジに染まってきている。
かすみさんと相談してここでご来光を見ようということになった。子どもたちは半分寝落ち状態。オレンジに染まった地平線に向かってがれ場を歩く彼らはすっかり幽霊の子たちのようだ。

正直なところ僕もしんどい。頭ズキズキ、胸はムカムカ。彼らをご来光が見えるところまで連れて行ってから、太陽が出てくるまでずっと目を閉じて、ウトウトとしていた。


ご来光は今年もしっかりと出てくれた。空はスキッと抜けのいい青色に染まって、気温もぐんぐんあがっていく。その色が抜けていくように子どもたちも明るくなってきた。会話がどんどん出るように男子も女子も楽しく話している。よかった。今年もなんとかなりそうだ。そんな思いを持ちながら残りを登っていく。僕も太陽が出てからいくぶん気分が戻ってきた。


あんなに遠くに見えていた頂上の鳥居が目の前に。最後はまた子どもたちに横一列で鳥居をくぐらせた。ゴール。日本一低い山から2週間かけて、ここまでやってきた。

子どもたちの様子は。それがまったくもって歓声があがらないのだ。ハイタッチもないのだ。こちらが拍子抜けするほど淡々としていたりする。こういう部分は少し時間がたってからみんなにどんな思いだったのかを聞いてみたいなと思う。

いつでも何かを区切るのは、こうなるだろうと思いながら行動するのは僕たちオトナのほうだ、僕らが「全く先が見通せていない」としばしば言ってしまう彼らは「目の前のことがすべて」なのかもしれない。彼らの表情やことばだけでは分からない姿ってきっとある。それを分かったつもりにならないように。


大人の(僕の)予想に反して、一番盛り上がったのは山頂まで持っていったポテトチップスの大袋をみんなで出して食べるときだ。パンパンだった袋はどこかで破裂をして、すっかりしぼんでしまっていた。けれどもみんなでばくばくワイワイ言いながらポテトチップスを食べた。


さあ下り。もうすぐこの旅が終わる。去年も今年も葛藤すること、それは「この旅を振り返りながら最後はくだろう」みたいなことをわざわざ言葉にするのかというところ。これだけのことをやった、そしてもうすぐ親御さんに迎えられお別れとなる旅の終わりでも、子どもたちってフツーにゲームの話をずっとしていたり、平然としていたりするんだ。今年はゴール前にちょこっとだけかけたかな。


さて、6合目までくだってきたところでもうひと山あった。それまでずっと○○たちがふたりで話しているちょっと前で寂しそうにしていた○○を見ていた。気づくかな、気づけよ、と思いながらもその様子に変わりがないので「おい!○○が置いてけぼりになってるぞ!」と声をかけたら○○はそのまま早足で先に歩いていってしまって、そこで涙を拭った。そしてそのまま鼻血が出たのでかすみさんを送る。鼻血を押さえながら涙もぬぐう○○。やってしまったという顔でいる○○たちに日陰をつくれとレインウェアを渡した。

鼻血がおさまってまた早足で歩きだした○○に○○たちが駆け寄っていって深く頭を下げていた。それを立ち止まって聞いていた○○が座りながら口を動かしていたので、ここはぼくも駆け寄ってそばにいる。


「もしかしたら僕って仲間じゃないのかもって。ただの荷物持ちなのかなって思ってた。荷物のことだってみんなそれぞれ荷物があるし、僕が持てばそれでまるくおさまるし。けれどもそのことが寂しかった。」


普段のおちゃらけキャラとは思えないほど、まっすぐに誠実に彼の言葉は子どもたちに届いていたと思う。よく言ったと彼の頭をなでた。もうすぐそこに親御さんたちが待っている状況での出来事だった。


ここから家族の姿を見た。最後はみんなで笑おうとうなだれていた2人が○○を笑わせようとあの手この手を使ってちょっかいを出している。しばらく我慢していた○○も最後は負けだ!というようにまたカラッとした声で笑った。


登山口が見えた。待ってくださっていた家族が大きな声で手を振りながら子どもたちを迎えてくださる。もうあと数歩で抱きしめられるというところで、ただいまの挨拶をさせた。

びっくりするくらい小さな声が出た。だめ!もういっかい!今度は大きな声が出た。迎えてくださったご家族に会ってこい!と送りだす。
今年はドラマチックだったな。がんばり屋さんの○○はお母さんの胸にそのまま顔をつっこんで泣きじゃくっていた。テンションのいつも高いお父さんは我が子をガッチリとハグしていた。○○は自分の兄弟たちに囲まれていた。お母さんがまだちっさい赤ちゃんがいてこの標高まで来れなかった○○は学校の先生に抱きしめられていた。


最後のミーティングのことはあまり書かない。このゴールのシーンで終わっていいと思う。
ただひとつ彼らに届けたかったこと。この大きな経験を人に誇れるものとして持つのではなく、誰かを助けるために持っていて欲しい。僕らは家族だ。だからいつでもどこでも繋がってる。


この夏も最高の旅でした。また子どもたちに教えてもらいました。

彼らと旅をできたこと、送り出してくださった家族のみなさん、今年も支えてくださったかすみさんはじめ協力いただいた方々、そしてこの旅で子どもたちのためにたくさんのおくりものをしてくださった皆様に心からの感謝を込めて。ありがとうございました。

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