#10 ダイヤモンドの「レーザードリルホール」に思うこと


ダイヤモンドに空いている「レーザードリルホール」ってご存知ですか?

その名の通り、レーザーでダイヤモンドにドリルのように直線的にあけた穴のことです。

これは今はまた違う手法で行われているようですが、ある一定期間の中古のジュエリーに使用されているダイヤモンドによく見かけることがあります。

この処理の目的は、「有色のインクルージョンを肉眼で見えにくくするとこ」です。

行程としては、ざっくりと以下の通り。

1、レーザーで、有色のインクルージョンに到達する穴をあける。

(主に黒い"カーボン”と呼ばれるインクルージョン)

2、空けたトンネル状の穴に酸を流し込み、インクルージョンを溶かす。

3、ダイヤモンドの屈折率に近い、調整された鉛ガラスを流し込み、固結させる。(水の中の氷のような現象で、トンネル状の穴が見えにくくなる)

4、通常のグレードよりも1グレードほど綺麗になって完成。

一見、見た目の美しさは1グレードほどアップして見えるので、画期的な処理方法のようにも感じます。

でもこの処理には、落とし穴が・・・

○表面に達している穴が空いている

→ダイヤモンドはスレ傷には強い(モース硬度10)が、衝撃に弱い"完全劈開”という性質を持つため、貫通した穴が空いていることで耐久性に不安が生まれる。(使用時あるいはリフォーム時)

○レーザードリルホールに流し込まれる鉛ガラスは屈折率が高い分柔らかいのと、経年変化で白く濁りを生じる場合がある。

○インクルージョンは溶かされて無くなっているが、グレードそのものが改善されるものではない。

○インクルージョンは溶かされて見えなくなってはいるが、鑑定書には「レーザードリルホール(LDH)」の処理ありの旨、記載されてしまう。
→実際にそのダイヤモンドの価値が高められる処理ではない。むしろ、同じグレードの石よりも20~30%ほど、査定価値は下がる。

上記のような諸々の事情があり、今は新たにレーザードリルホールという処理はあまりされていないようです。(看破されにくい、内包物を消す別の処理は存在しています)ただ、ある一定時期に盛んに行われていたこともあり、SI-1以下のダイヤモンドにおいては今でもよく見かけます。

※ちなみにこの処理は、VSー2のグレードからあり得るので注意です。

私が買い取り査定をやっていた頃は、本当によくこの処理がされているダイヤ(40年前くらいに購入されたものに多かった印象)に遭遇しましたし、現在仕入れをしていてもしょっちゅう目にします。

厄介なのは、すべての鑑定機関でこの処理を鑑定書に記載してくれるわけではないと言うことと、今現在信頼できるとして流通している鑑定機関の鑑定書であっても、古い鑑定書だと記載されていないことがあるという点です。いたずらに「私のダイヤモンドにも空いているのでは!?」塗布案になることはありませんが、今持っているダイヤモンドのジュエリーをリフォームに出す際は、せっかく石を台座からはずして裸石に出来るタイミングなので、今の基準での鑑定書に作り直してもいいかもしれません。

今回ご紹介のダイヤモンドの「レーザードリルホール」もそうですが、宝石に対する人工的な処理がすべて悪いということではありません。

問題なのは、私たち"宝石・ジュエリーを扱う側”が、その処理の性質をきちんと理解し、お客様にご購入の前に説明して、その価値に見合った金額できちんとご呈示しているかどうかが問題なのです。

お客様によっては、きちんとその宝石の性質を理解した上で、「それでこの金額だったら買ってみようかしら」とむしろ手頃な金額だと喜んでくださる方もいらっしゃいます。要は、「開示をきちんとしているか。それに対する説明は十分なされているか」が大事なのですね。

宝石のカットや研磨の際に施される処理等は、人間の叡智の結晶です。

人間が大地からの恵みにどう命を吹き込んで最大限の輝きを導き出せるか、その軌跡がそのカット技術や施される処理の変遷で見返すことが出来ます。

加熱処理や放射線処理など様々ありますが、金額と見合わせてうまく付き合っていけるといいですよね(^^)

<募集>

宝石・ジュエリーの疑問やリフォームの不安な点、疑問点、ご質問などがございましたら記事にしてお答えいたします。お気軽にコメントで残していってください(^^)


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