無有 7 彼の地へ

 ヤンをはじめとした人々の半数は無有に落ち着き暮らし始めた。テトと長老たちは女王に言われた彼の地へと向かった。東や南へ向かう者もいた。
 レムリア人たちは辿り着いた場所にアスカと名付けレムリアの痕跡を残した。長老たちは重くなってしまった皆の魂がこの新しい世界によって磨かれ更なる高みに登るまで アトランティスの技術とレムリアの叡智を西の果ての地に隠した。テトはまたみんなに会うことだけを願い長老のもとで懸命に働いた。過ちを悔やんでいる時間があるなら その時間でやれるだけのことをしたいと。祈りの力を失ってしまったレムリア人とそれを必要としているガイアのためにアトランティスの科学者たちは祈りの装置を ガイアにとって必要な場所へ建造していった。
 叡智と科学。対立から生まれたゆがみを中庸にするには両極を知る必要がある。これからガイアに住む者すべてでその両極を体験していくのだ。長老は歌や遊びにレムリアの叡智を込めた。祈りとなはにか 人はどう在るべきか 自分の亡き後の世界にも伝わっていくように。

 子へ孫へ命が移り、歌は伝わっていった。レムリア人はガイアのエネルギーポイントを探し 移り住んでいった。その場所を聖なる場所として護るために。しかし命の営みが増えていく中で 人々は生きることに手一杯になり レムリアの祈りの意味も美しい言葉たちも、そしてアトランティスの高度な科学技術も正しく理解できない者がしだいに増えていった。
 
 源から発生したすべてのものは その内に源の分光を持っている。これが意識であり魂だ。しかし あまりに急激な恐怖体験により人々は自らが源の分光だということを忘れ ガイアと分離し 死を恐れるようになってしまった。太陽の影なる美しい月は隠され 足元のガイアの意識は忘れられ 天高くある太陽だけを信仰するようになった。すると人々は多くのものが見えることを忘れ、目に映る世界は徐々に狭くなっていき、ものを所有することに価値を置いていくようになった。

 ガイアの意識は この時代に生まれた沢山のネガティブな感情と体験の情報に重く暗く沈んだ。あんなに美しかったガイアも人間同様、低い次元へと落ち、源と分離していった。分離したガイアに目をつける存在もまたたくさんいた。ガイアは霊的エネルギーを持った惑星だったからだ。ガイアの美しい皮膚は一部の存在によって好き勝手に切り分けられ 支配欲に魅入られた人間たちによる略奪と所有が繰り返されていった。目に見えるものを所有することがどれだけ価値のあることなのだろうか。皆が一様に必死になって動かされている様を創造主は眺めていた。

 闇の子どもたち。

創造主は人間をそう呼び愛しい兄弟を見守っていた。






#創作大賞2022

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