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「読みたい」の地層-2020.03-2

「この本が、自分に未知の何かを教えてくれる」「特別な感情を湧き上がらせてくれる」「ここではないどこかへ連れて行ってくれる」「もしかしたら自分を変えてくれる」「あるいは成長させてくれる」そういったポジティブな予感の集積によって、本は積み上がっていくのだ。自分は元々ネガティブな人間ではあるのだけど、世界に対して肯定的でなければその衝動は起こり得ない。だからこそ大事にしたいと思うのだ。」(施川ユウキ『バーナード嬢曰く。②』、p.44)


「読みたい」という感情は、積み重なって層になる。その層は、いつか振り返ったとき、その時の自分を知る手がかりになるかもしれない。

これは、ある本を読みたいと思ったときの感情を記録しようとする極私的ジャーナルです。


今日は誰にも愛されたかった(谷川俊太郎、岡野大嗣、 木下龍也著、ナナロク社)

TBSラジオ「アフター6ジャンクション」2020年3月19日放送のカルチャートーク「一ヶ月で200冊の本を読む!今注目の『詩集・歌集』」でゲストの美村里江さんが紹介していた。

谷川さんという詩歌界(?)の超大物と、若手世代の代表的な歌人である岡野さん、木下さんの連作集+メイキング集、という性格のものらしい。短歌ができる過程みたいなものに興味があるので、これはおもしろそう。

番組内で、谷川俊太郎の「あとがき」を引用しながら美村さんは「言葉といちゃつくこと」が詩や短歌でありそれが一人遊びとして大変に楽しい、頭の中に言葉という潤沢なアーカイブが入っていて、それを材料として使い放題で詩や短歌を作ることができる、と言う。美村さんが大変な多読家であるとは聞いていたけど、本を紹介するときの語り口がすばらしい。その本が好きな理由を淀なく、素敵だと思うポイントは熱っぽく愛おしさ全開で伝えらたら、もう絶対読みたくなるに決まっている。


天皇退位 何が論じられたのか-おことばから大嘗祭まで(御厨貴編著、中公選書) 

大きな書店をフラフラしていた時に、平台にぽつんと置いてあるのをたまたま見つけた。

2016年7月のNHK「天皇退位スクープ」から元号が令和へと変わるまでの3年余りに発表された論文、論考、インタビューを、「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」座長代理を務めた御厨氏が編者として選び、コメントを付したもののよう。
天皇制については数年前から興味を持って勉強していたテーマなのだが、今回の「退位」もあって、今一度ここまで交わされた論点を整理したいと思っていたところ。
天皇制、退位、天皇の公務・・・今回の生前退位によって炙り出された様々な論点について、この一冊で様々な論者の様々な論じ方を読むことができそうなので、必要な時に参照する資料として欲しいと思った。



波よ聞いてくれ(沙村広明、講談社 アフタヌーンコミックス)

スキップとローファー(高松美咲、講談社 アフタヌーンコミックス)

ずいぶん前にTBSラジオ「荻上チキ Session-22」の、チキさんがおすすめコンテンツを紹介する「セッションプラス」のコーナーで紹介されていて知った漫画。

前者は、ラジオについての漫画がラジオで紹介されるっていいなあと、後者は「ちょっと天然の主人公が、周りを幸せにしていく」ようなストーリーだと聞いて、これは『町田くんの世界』的なやつか?なら自分が好きなやつだ・・・と思いつつも、ため込んでいる本がたくさんあったのでその際はなんとか我慢した。

が。最近発表されたマンガ大賞2020の結果を見てしまい、読みたい欲が再燃した。


こういう賞とかランキングで上位に来たからといって読みたいと思うのは、ミーハーにすぎる、自分でおもしろい作品を見出せないのか情けねえ、と自分でも思う。ただ、きっとおもしろいだろうなあと思っていたものを読まずにいて、それが評価されているのを見ると、自分がうかうかしている間にたくさんの人がそのコンテンツを楽しんでいるなんて、とちょっと羨ましいというか悔しいというか、そんな感情が芽生えてしまうのが正直なところ。


結果、それぞれ1巻を購入してしまった。

『波よ聞いてくれ』から読み始めたのだが、セリフのテンポの良さ、小ネタのはさまるタイミングの絶妙さが生み出す疾走感が気持ちいい。沙村広明作品は『ブラッドハーレーの馬車』しか読んだことがなく、あんな感じのエログロ暗い系の作家さんかと思っていたので、いい意味で裏切られた(「あとがき」に「俺もいい歳なんだからそろそろエログロとかパロディとか控えないと・・・という強迫観念の結晶がこの漫画」と書かれていた)。

2020年4月から、TVアニメも始まるそうだ。


なお、1位の『ブルーピリオド』(山口つばさ)は納得です、というか大好きです最高です。一人で読んで、胸熱くするのもよし、本作読んでいる友人と「ここの場面のあのセリフがいいよね!」と語り合ってもよし(語り合う友人がいない)。田島列島さんの『水は海に向かって流れる』は5位か、もっと上でもいい気がするけど。

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