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リアル 残像に口紅を

 職場から、「この言葉は使わないでください」と指示されている言葉がいくつかある。ら抜き言葉や「~たり、~たり」文など、文法的に正しい言葉で記述することだけでなく、社会的には全く問題がないが、社内では避けるといった言葉である。

 会社の顧客先から「こういう言葉は使わないでくれ」とクレームが入ったなどという経緯が積み重なったものなのであろう。そのリストの中には、「その上で」がある。どうしても書きたいときは、「そのうえで」と平仮名表記にしなければならない。

 私は「その上ではその上でだろう」と思うし、その上でと書くのが習慣になっているものを直すのはかなり大変なので(不承不承直そうとしてみたのだが、どうしても書いてしまって、字の修正が多数発生した)、「そのうえで」を使わないようにするという対処をしている。

 結果、仕事に語彙を制限されているようになっている。リアル『残像に口紅を』である。

 たしか、ケン・リュウの小説にも、語彙を制限される短編小説があった気がする。そちらは舞台が近未来の中国だけに、妙にリアルだった。政府から使っていい言葉のリストが配られるのだが、それの裏をかいてなんとか他者と本音の交流をしようとするので、その言葉のリストがどんどん減っていくのだ。

 (追記 調べてみたら、ケン・リュウ編集の「折りたたみ北京」の中に入っていた馬伯庸(マーボーヨン)の「沈黙都市」でした)

 職場の業務マニュアルは毎年更新され、四月には新しいものが配布されるらしい。

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