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ハイキングと天ぷら

近所の山へハイキングに行った。
空は曇っていたが半袖でも寒くはなくハイキングにはちょうどいい。

登山口から舗装されたゆるやかな坂を登っていくとクズの花が見つかった。
4歳四女はすぐに手に取って匂いを嗅いだ。
隣にいた9歳次女も真似をした。

1歳次男は泣きながら何度も抱っこをせがんだが、小さな赤い花がたくさんついたミズヒキを渡すと、振り回しながら登り始めた。

7歳三女は木の棒やツユクサをとっては私に見せてくれた。

カラスがやたら大きな声で鳴いて、木がザワザワとなった。
空は雲と木に覆われて真っ昼間にしては暗い。
米軍の飛行機が大きな音を立てて頭上を通り過ぎ、次男が私の足にしがみついた。

隣を歩いていた四女が突然
「てんぷら食べたくなっちゃった」
と言い出した。

「え???」

「葉っぱの天ぷら」

「ああ!」

そういえば今年の4月の雨の日、四女と二人で同じ山にやってきた。

その前日、放課後野外保育の活動で、この山でみんなで野草を摘んだ。
それらを山頂で天ぷらをしたのがとても気に入り、もう一度食べたいと四女から強い要望があった。
たまたま時間がある日だったので、雨の中、ヨモギ、タンポポ、ハルジオンなど摘みにいって、帰って天ぷらにした。

それを覚えていてくれたようだ。

「ママと二人で来たよね?覚えてる?」

「もちろん」

その日、上下カッパを着て、雨でも野草を摘むと張り切って出発したものの、山道は今日のように少し暗く、雨の音、風の音、米軍の飛行機の音にいちいち驚き、怖い帰ろうと泣いたので途中で引き返した。

ハルジオンを摘む四女

私にも、ふとした瞬間に思い出す、断片的な記憶がある。
例えば、柿の木を見ると、祖母と一緒に食べた柿の種を植えて育てたなとか、金柑を見ると、祖父が畑で水分補給の代わりに金柑を食べていたなとか、そういった懐かしい記憶が。

四女も数十年後、何かの折に、私と山を歩いたことや、野草を天ぷらにしたことを思い出すのだろうか。

その後一通り今日歩きたかった場所を散策して引き返した。
今にも雨が降りそうな湿った空気が流れ出し、銀杏の匂いが立ち込めたので、四女がくさいくさいと言って笑った。

帰り道に車窓から見た山は、まだ黄色くなり始めたばかりだった。

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