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【2020展望】 イースタンVの用兵から探る、楽天・三木流「弱者の兵法」の正体

今から楽しみな三木監督のID野球

楽天の今季スローガンが『NOW or NEVERいまこそ 日本一の東北へ』に決まった。「今年が勝負だ」「いまこそ優勝をつかむんだ」という強い決意を表したという。個人的にも、今年のイーグルスには本当に期待しており、はやくも武者震いするほどだ。

昨年オフ、イーグルスは石井一久GMの指揮のもと、『妥協なき改革』を断行した。その過程では平石洋介監督と袂を分かち、嶋基宏の退団、西巻賢二の戦力外など“痛み”も生じた。

ファンの間で賛否両論を巻き起こしたが、それもCS1stステージ第2戦から怒涛の10連勝で日本一に君臨した若鷹軍団の覇権を打破するため。荒療治のすえ集まった今シーズンの戦力は、三木肇新監督を中心に十分な陣容が整っている。

今から楽しみなのは、43歳の新監督がみせる三木流のダイナミズムだ。

野村ID野球の正統的後継者という立ち位置。ヤクルトでコーチ職にあったとき、あの山田哲人に「初めて走塁練習をしたいと思った」と言わしめた徹底した走塁改革など、三木野球についていろんなことが言われている。

監督就任会見時には三木監督も「いろんな予測と準備をして瞬時にプレーの選択、判断ができる状況判断力を養っていく。いろんな戦い方ができる強いチームに成長させたい」という抱負を語ってくれた。

野村克也監督のID野球を令和にバージョンアップさせ、そこにセパ3球団で培った自らのエッセンスも流し込んだ三木流・弱者の兵法とは、具体的にはどういう野球を指すのだろう?

その実態に迫るべく、昨年の楽天2軍の戦いを確認してみたい。

侍ジャパンの優勝で幕を閉じたプレミア12終了後から年末年始、僕は三木監督のもとイースタンリーグ初優勝を飾った昨年の楽天2軍のプレーデータを集計している。

今や2軍戦もほぼ全ての試合が何らかのかたちで視聴できる幸福な時代だ。1月19日現在、パリーグTVのアーカイブの中から32試合を観戦。これは全試合の26.0%に過ぎないが、そのなかで三木野球について「見えてきたもの」があった。今回はその具体例を3つご紹介しよう。

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昨年2軍のIsoDは球団史上最高値

1つめは『2ストライク・アプローチの徹底』だ。

昨年、楽天2軍のチーム打率.245、同出塁率.330はいずれもイースタン5位。しかし、安打以外の出塁率IsoD.085は同2位を記録した。過去の歴史を紐解くと.085は球団史上最高値。創設2年目以降は長らく0.64~0.76の間で推移した数字が初めて.080を超えるシーズンになった。

5/18西武2軍戦(○E1-0)、内田靖人による《粘りの四球》は記憶に残る打席になった。

この試合は、6回を終えてスコアレス。終盤の1点がそのまま決勝点になりそうな展開で迎えた7回楽天の攻撃だった。内田は先頭打者だった。

空振り、ボール、空振り。早々に追い込まれたが、バットを短く握り直して応戦。くさい球を見きわめ、際どい球をファウルで逃れ、先頭打者四球をもぎ取った。この後、送りバントで二進した内田は代打・西巻賢二のタイムリーで決勝点のホームを踏んでみせた。

その内田は昨年2軍で自己最高のBB/K.041を記録。持ち味の長打力をそのまま維持しながら、2ストライク・アプローチで三振を減らし四球を増やすことに成功している。

山崎剛のBB/Kも0.40→0.95へ大幅アップしたのも、本人いわく「2ストライクになってからのファウルの打ち方を変えた」ことが大きいという。

じつは金森理論を装備した1軍も昨年IsoD.082を記録し、この値は球団史上最高値だった。三木監督が2軍で掲げた《粘りの対応力》は、銀次や島内宏明などBB/Kに優れた打者の多い1軍主戦級との相性も良いはずだ。

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虚を突く意外な選手の意外プレー

2つめは『強打者にも小技などのサインを送る聖域なき采配』だ。

驚いたのは8/15日本ハム2軍戦(○E9-5F)のこと。

0-0で迎えた2回無死2,1塁、楽天ベンチはバント作戦を実施。みごとに三犠を決め1死3,2塁の先制機を演出した打者が内田靖人だったから、びっくりした。昨年の節分、久米島で赤鬼役に扮した和製大砲候補の犠打は、1軍2軍合わせて通算2426 打席で初の仕事になった。

100kg超のまさかの鈍足走者が敵軍守備の綻びに乗じる必死の激走をみせたのは、4/16日本ハム2軍戦(○E7-0F)。

8回1死1塁、下妻貴寛の左中間前方への当たりのときだった。打球は前進して捕球を試みた左翼手の直前に着弾。跳ねた打球が身体に当たり球が転々とする隙に、1塁走者・岩見雅紀は一気に3塁へ。外野からの送球を一足先に制し、巨体を揺らしながら3塁に滑り込んだ。打球の飛んだ位置、センターのバックアップが遅れぎみという相手の外野陣形を踏まえた塩川達也3塁ベースコーチの好判断もあった。

「どうなるの?」と僕が戸惑ったのは、5/15ヤクルト2軍戦(○E7-6S)。

同じく強打者候補の耀飛がバスター作戦を敢行したとき。4点を追いかけた6回の攻撃だった。2点を返して5-6に迫り、なおも無死2,1塁、1-0からバスターでサード前方にボテボテを転がし、しっかり1死3,2塁を決める進塁打の役目を果たす。耀飛は初球もあらかじめバントの構えをみせており、敵軍バッテリーも僕のように「本当にバントをするのか?フェイクなのか?」、相当困惑したはずだ。

4番・阿部慎之助に犠打を命じた巨人・原辰徳監督のように、、、

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