第35回建設業経理士 2級解説

総評


特段難しい問題はなく、標準的な難易度であったと思います。
第5問は問題文の指示がやや不適切に感じます。
解釈次第で複数箇所の解答が変わってきます。
どちらの解釈をとっても正解として扱ってほしいですね。

第1問

(1)普通


配当金の支払3,000,000について、繰越利益剰余金を取り崩します。
このとき、1/10を利益準備金として積み立てるというルールがありますので、3,000,000×1/10=300,000についても繰越利益剰余金を取り崩す必要があります。
なお、積立の上限額は利益準備金と資本準備金と合わせて資本金の4分の1に達するまでとなっているので、この点も確認しておく必要があります。
この問題では300,000積み立てても上限に達することはないので、このことを忘れていても解答には影響がありませんでした。

(2)普通


社債は額面ではなく、発行額で負債に計上します。
20,000,000×0.985=19,700,000を社債として負債に計上します。
全額の払い込み受けていますので、同額を当座預金のプラスとして処理します。
発行費用の150,000円は、繰延費用として処理するとありますので、社債発行費として資産計上します。社債発行費という勘定科目なので費用のように思えますが、この場合は資産です。ただし、そこまで理解していなくても正解できる問題でした。

なお、当座預金について払い込み19,700,000と社債発行費の150,000を相殺して19,550,000と解答した方もいるかと思います。
社債の払い込みは社債権者から受けた者ですが、社債発行費は金融機関などに支払った広告料や事務手数料なので、お金の流れは別物です。
そう考えれば、相殺するべきではないとも言えます。別の取引である以上、相殺せずに記載するべきです。
ただし、採点基準が一切公表されていない以上、どのように扱われるのかは分かりません。不正解あるいは減点とされる可能性もあります。
私が採点者であれば、相殺していても正解にします。

(3)普通


勘定科目欄に減価償却累計額の科目がないので、直接法で減価償却を行っていると判断できます。
取得が前々期首、売却が当期首なので売却までに2年分の減価償却が行われています。
耐用年数5年なので、売却時点での簿価は5,000,000×(5-2)年=3,000,000
売却対価との差額は固定資産売却益になります。

(4)易


賞与引当金を計上している場合、まずは引当金を取り崩します。
支給実績額との差額の1,000,000については、取り崩す引当金がないので賞与という費用科目で処理します。
これは引当金一般に共通することなので、貸倒引当金であっても同じです。
賞与引当金という見慣れない科目に戸惑った方も多いかも知れません。

(5)易


すくい出し方式の基本的な処理をダイレクトに聞かれています。
残りの評価額分だけ未成工事支出金をマイナスするだけです。

第2問

(1)普通


累計の完成工事高から前期までの完成工事高をマイナスしたものが当期の完成工事高です。
前期までの完成工事高50,000,000×8,500,000/(40,500,000+2,000,000)=10,000,000
累計の完成工事高(50,000,000+5,000,000)×(8,500,000+7,650,000)/(40,500,000+2,000,000)=20,900,000
差額の10,900,000が当期の完成工事高です。


(2)易


期首前払の3,000+当期支払額150,000=153,000と、損益計算書計上額148,000の差額5,000が前払利息です。

(3)易


売却前の帳簿価額は@300×5,000株+手数料13,000=1,513,000
1株あたりの単価は、@302.6
このうち2,000株を@420で売却していますので、(420-302.6)×2,000=234,800が売却益です。ただし、手数料が差し引かれていますので、最終的な損益は234,800-6,000=228,800となります。

(4)やや難


いわゆる総合償却です。全くの初見では解答困難かと思います。これは取れなくても仕方ないですね。
分子は取得原価の合計6,300,000+3,800,000+1,500,000=11,600,000
分母は1年あたりの償却額の合計 (6,300,000÷7)+(3,800,000÷5)+(1,500,000÷3)=2,160,000
小数点以下切り捨てなので、解答は5年です。

第3問

非常に簡単です。満点とれます。
問3の記号選択は戸惑ったかもしれません。

問1易


予定配賦率を出すだけです。落とせません。
監督者甲と乙の給与手当予算額の合計を、予定作業時間で割ります。
(8,650,000+6,575,000)÷3,500=4,350

問2易


問1が正答できていれば、間違えようがない問題です。
予定配賦率4,350×93h=404,550


問3普通


配賦差異の合計が聞かれています。
予定配賦額は4,350×(75+93+124)h=1,270,200
実際発生額は問題文に記載の通り1,268,000
実際発生額のほうが少ないので、2,200の有利差異(=貸方差異)です。
借方差異、貸方差異という表現に戸惑ったかも知れません。
2,200の計算があっていても、借方と貸方のミスで点数が吹っ飛びます。
数値だけの部分点はおそらくないので厳しいですね。


第4問

問1は数値がかなり多いので、計算ミスに要注意です。
難易度そのものは普通かと思います。
問2は満点必須です。

問1


ポイントは2つです。
①値引・返品高と仕入割引高の処理
値引・返品は単純に仕入のマイナスとして考えます。
問題は、仕入割引です。
仕入割引の本質は、本来よりも早く支払ったことによる金利です。
本質が金利である以上、支払利息と同様に営業外費用となります。
なので、仕入のマイナスは考えません。
ここを正確に処理できたかが最大のポイントかと思います。

②計算ミスをしない
問題文の分量が多く、電卓を叩く回数が多い問題ですが、逆に言えばそれだけの問題です。材料費で前述のミスをするのは仕方ないかもしれませんが、労務費、外注費、経費は単純に電卓を叩くだけで解答できます。単純な問題ほど、計算ミスが致命的になります。

問2-1


一定期間に発生した原価をその期間中の生産量で割って→総合原価計算であると判断できます。


問2-2


1つの製造指図書→個別原価計算であると判断できます。

問2-3


区分して計算し→形態別原価計算であるとの予想は立ちます。
形態別原価計算という言葉自体、あまり聞いたことがありません。
戸惑った方も多いかとは思います。
ただし、他の選択肢は明らかに不適切なので、消去法的に形態別原価計算であると判断できます。

問2-4


見積原価、予算原価といった単語が並んでいますので、事前原価計算であると判断できます。他の選択肢が明らかに不適切なので、消去法的にも判断できます。


第5問

(1)①


小切手振出の時点で当座預金をマイナスしていますが、未渡なので戻します。貸方の勘定科目は迷いますが、解答用紙にあるものから選ぶとなると、未払金が最適かと思われます。ただし、未払金の金額に配点はないと思います(個人的な予想です)。
当座預金 2,300/未払金 2,300

(1)②


単なる未記帳なので仕訳を入れるだけです。
当座預金 12,000/完成工事未収入金 12,000

(2)


材料貯蔵品の棚卸減耗分をマイナスします。借方は材料評価損という費用項目になりますが、未成工事支出金に振り返られるので最終的な仕訳は
未成工事支出金 500/材料貯蔵品 500
となります。

(3)①

仮払金をまず消去します。
相手科目は旅費交通費が3,700円と、現金300円です。
旅費交通費 3,700/仮払金 4,000
現金            300

(3)②

 
後回し(当期純利益と法人税等が確定後に処理)

(4)①


生産高比例法はほとんど出題されない方法ですが、なんとなく分かりますよね。
1単位当たりの償却費=600,000÷30,000=@20
予定計上額@20×500×12ヶ月=120,000
実際額@20×6,150=123,000
差額の3,000計上が不足しているので、追加計上します。
工事現場用なので、工事原価として未成工事支出金に計上します。
未成工事支出金 3,000/機械装置減価償却累計額 3,000

(4)②


当期取得分の20,000と、それ以外の100,000に分けて考えます。
当期取得分は20,000÷4×6/12=2,500
それ以外は100,000÷4=25,000
当期取得分は10月取得なので10月~3月の6ヶ月分の償却です。
本社用なので未成工事支出金にはなりません。
備品減価償却費 27,500/ 備品減価償却費累計額 27,500

(5)①


仮受金として処理していますが、本来は完成工事未収入金のマイナスとして処理するべきものです。
仮受金 9,000/ 完成工事未収入金 9,000

(5)②


仮受金として処理していますが、本来は前受金として処理するべきものです。まずは、
仮受金 10,000/ 未成工事受入金 10,000
という仕訳が入ります。
問題は、その後です。
「なお、当該工事は当期において完成し、引き渡しているが、未処理となっている。」と問題文に記載があります。
「未処理」とは何が未処理なのでしょうか。
A)未成工事受入金が未処理であって、完成工事高への振替が行われていない
B)仮受金が未処理であって、完成工事高は処理されている
どちらの解釈も取り得ます。
ただし、仮受金が精算表に残っていますから、仮受金が未処理であることは言うまでも無く当たり前の話です。
そう考えれば、A)の解釈が自然です。
その後の計算数値がキリの良い数値になることからしても、出題者はA)の解釈を想定しているかと思われます。
当解説ではA)の解釈を採用します。
日本語の試験ではないので、こういった記載はやめてほしいですね。

最終的な仕訳としては、
仮受金 10,000 / 未成工事受入金 10,000
未成工事受入金 10,000 /完成工事高 10,000となります。
未成工事受入金は相殺されるので解答には影響しません。


(6)


精算表から売上債権の数値を拾います。
受取手形25,000
完成工事未収入金376,000
これに、(1)②の完成工事未収入金12,000マイナス
(5)①完成工事未収入金9,000マイナスを調整します。
25,000+376,000-12,000-9,000=380,000
380,000×1.2%=4,560
すでに4,200計上されているため、差額の360を貸倒引当金に計上します。
貸倒引当金繰入額 360 /貸倒引当金 360

(7)


完成工事高は精算表の23,580,000と(5)②10,000の合計で23,590,000
23,590,000×0.2%=47,180
0.2%=0.002です。0.02ではありません。
こういったミスから大量失点につながるので要注意です。
すでに46,500計上されているため、差額の680を引当金計上します。
未成工事支出金 680 / 完成工事補償金引当金 680

(8)


退職給付引当金は毎回出てますね。
本社分は一般管理費、現場分は工事原価です。
退職給付引当金繰入額 2,800 / 退職給付引当金 2,800
未成工事支出金 7,600/ 退職給付引当金 7,600

(9)


簿記3級レベルの仕訳です。
前払費用 3,000 /一般管理費 3,000

(10)


未成工事支出金の残高が126,100になるように、完成工事原価を計上します。
まずは未成工事支出金の集計をします。
精算表186,500+(2)500+(4)①3,000+(7)680+(8)7,600=198,280
198,280-126,100=72,180を完成工事原価とします。
完成工事原価 72,180 /未成工事支出金 72,180

(11)


収益と費用を全て集計して純利益を出します。
それに30%をかけて法人税等を計算します。
仕訳としては、
法人税、住民税及び事業税 80,400 / 仮払金 28,000
                                                          未払法人税等 52,400
となります。
ただし、ここまで正解する必要はありません。
建設業経理士は70点を取れれば確実に合格できる試験です。
法人税等の数値は、収益・費用に関する仕訳を1つのミスもなく行えていないと正確な数値は計算できません。
おそらく法人税等or未払法人税等のどちらかに3点程度の配点があると思いますが、3失点程度であれば大した傷ではありません。
むしろ、他の簡単な問題を確実に取ることの方が大切です。
取るべき箇所を取って70点を確保すれば合格できます。
これ以上の解説をする必要性も乏しいと思いますので、計算過程は省略します。





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