"僕”の起業の物語 堕ちる時・・

  前回は・・

  (ああ…堕ちていく。)

  止められない。落下を止められない。

  パチンコ屋の喧騒の中で、僕の感覚は麻痺していた。


  (もう負けられない。もう負けられない。)

  サンドに何枚もの千円札が消えていく。もう数えてさえいない。

  
  奥さんに内緒でキャッシングしたお金。最初はこずかいで返せるお金だけと思っていた。


  もちろん、負けが込んできたらそれでは止まらない。

  (ここまで回したらあと一万ぐらいで天井だ。こんなところでは止められない・・・)

そうして借金は膨らんでいく。

  (どうして、こうなっちまったんだ・・・)


  2か月間の研修は楽しかった。優秀な成績で無事終了することができた。

  セールスのトレーニングをして、保険の知識を学んだ。

  外資系らしくシステマチックでとても有意義なな時間だった。


  セールストークが既に決まっていて、まずはそれを丸暗記する。
 
  客の反応によってフローチャートで切り返しのトークが決まる。
  
  それをロールプレイングして違和感なく仕上げる。丸暗記の棒読みは売れないからだ。


  2ヶ月間それとを繰り返す。自信もついてくる。


  研修後は各々地元の営業所に勤務することとなる。


  ただひとつだけ気になることがあった。
  
  営業のスタイル、つまり新規顧客獲得のスタイルがいわゆる飛び込み営業なのだ。

  自分のエリアが割り振られ、片っ端から飛び込んでいく。基本法人がメインターゲットなので
 
  会社のドアを叩くことになる。アポなしでいくのだからあまり相手にされない。

  一日30件飛び込めれば今日は頑張ったなという感じである。

  あまり効率は良くない。
 
  (外資でも飛び込みなんかやるのか)
 
  疑問を持ちつつも、決められたマニュアル通りセールストークする。

  「あーいらない」「興味ない」のオンパレード。こっちのトークなんか聞いてはくれない。


  トークできたらまだいい方だ。ほとんどが留守。相手は社長かそれなりの決定権がある人。

  まずいない。受付のお姉さんにトークしても

  「はあ、また社長がいるときにきてもらえます?」

  となるだけ。

  それでも何件かは契約することが出来た。
 
  しかし、月に一件か二件。とても一年後の査定をクリアできない。

 
  五年間の勤務期間で年毎にノルマが決まっていてそのラインまで達することが出来ないと

  「クビ」

  この辺は外資らしいドライさだった。
  
  一年目は割と甘めに設定なのだが、このペースだと危ない。

 
  (なんとかしなきゃ・・・)

  
  今日は頑張ろう、今日は30件飛び込みするぞと会社に向かうのだが

  気が付くと喫茶店にいる。

  
  やはり飛び込み営業するのは気が重い。


  今思うと、とんでもない甘ちゃんだ。
 
  コツコツと目の前のことをこなさないで、結果が出ないことを嘆いている。
  
  成果がでるまで真剣に取り組んでない。お客から罵倒されることが嫌で、飛び込んでいけない。

  
  効率が悪い、無駄な気がする とかいつも言っていた。

  
  今なら分かる。成功する人は走りながら考える人だ。
 
  準備が整ってからでない。すぐ始めるのだ。そしてやりながら、改善していく。


  そして、ルーティン、習慣化をうまく使う。

  何事も始めるのが一番エネルギーを必要とする。習慣化する事で少ないエネルギーで起動することができる。


  営業スタイルうんぬんではないのだ。僕は失敗するべくして失敗した。

  営業しない→売れない→売れないから焦る→ストレスがたまる→パチンコ屋に行く

  という負の習慣化が完成した。


  あれだけあったやる気も激減した。金持ち父さんはもう埃をかぶっている。


  もう止まらなかった。自分では止められない。カードを何枚も作り自転車操業。

  奥さんにばれないように最新の注意を払って。


  しかも、大型の火災保険が取れたことで一年目をクリアしてしまったのだ。

  損害保険の営業で火災保険は爆弾だった。単発で毎月の保険料が入る訳ことはないから。

  積み上げた保険料ではないので次の2年目はほぼ絶望的だった。損保では保険料は
  
  少額でも、毎月保険料が入る契約を沢山集める事がベストなのだ。


  ただあと一年猶予ができた。死にもの狂いで頑張れば奇跡を起こせたかもしれない。

  可能性はあった。

  
  でも僕はやらなかった。


  ただいつも考えていた。どうやったら売れるのか。

  こんな足を使った営業は効率が悪いと思っていた。


  そして、営業歴3年目にして営業とはという答えを見つける。

  さぼって考えただけあった。

  答えは本にあった。


  詳しくは別の記事で描きたいのだが、要は相手が興味があるのかないのか、電話で判断する。

決して売り込まない。リーサーチするだけ。相手が興味が無ければさっさと次へ。

  殿様セールスである。へりくだったり、値引きしたりしない。


  欲しい人だけに売るのだ。


  これだ、と思った。電話営業を開始してみた。電話営業はブラック企業時代さんざんやっているのでお手の物だ。

  「社長ですか。いま当社でこういう保険を出しているのですがご興味ありますか」

  「興味ないな」

  「わかりました。失礼します。」


   リストから外す。次へ。

   
  「社長ですか。いま当社でこういう保険を出しているのですがご興味ありますか」

  「興味ないこともないけど・・・」

  「資料を持ってご説明することができますが、希望されますか?」

  「うーん わかった。○時頃来て」

  「承知しました。お伺いします。失礼します。」

  
  (・・・・マジ?)


  電話を切った後、嬉しさで飛び上がりそうだった。

  (この方法すげーぞ)

  金脈を掘り当てた気分だった。

  そのお客さんは当然契約。結構な保険料となった。


  しかしこの方法地道な電話営業が必要となる。

  ・・・地道ができないのだ。

  (この方法だといつでも契約取れるし、とりあえずパチスロやるか)

  となってしまった。


  負けが込んでくると営業どころではない。

  いかにパチンコで取り戻すかしか考えなくなった。


  転職して一年半が経過してころ自転車操業は破綻した。どのカードも
 
  限度額いっぱいになり、返済不能になった・・・

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