講演(2回目)西予市、新居浜市、砥部町
西予市宇和文化会館 2023年10月31日(火)、新居浜市市民文化センター 2023年11月1日(水)、砥部町文化会館 2023年11月2日(木)
講演「企画のヒント」
川島香(公益社団法人日本芸能実演家団体協議会[芸団協])
「愛ある地域おこしスタータープログラム」の大本である「JAPAN LIVE YELL project」は舞台芸術等の公演ができなくなってしまったコロナ禍の2020年に始まりました。舞台芸術は身体表現であり、一度活動をストップさせてしまうと技術の維持が難しく、ノウハウを伝承する力が弱まってしまう難しさがあるため、なんとか舞台芸術の活動を止めずに継続する方法を考えてプログラムを実施してきました。文化団体の方に参加してもらい、これまでの4年間に41都道府県で4000件ほどのプログラムをこれまでに展開してきたそうです。
今回の「愛ある地域おこしスタータープログラム」では地域課題や地域資源に向き合い、文化芸術と結びつけてどのように新しい価値を発見していくことができるのか、そのヒントをキーワードや全国各地での事例を通じてお伝えいただきました。
文化芸術基本法
最初に、2001年に制定され、2017年に改正された「文化芸術基本法」についてご説明いただきました。私たちにとって文化芸術はどんな価値があるのかという認識をふまえて、国、地方公共団体の責務を示している法律が「文化芸術基本法」です。この法律ができたことにより、地域での市民による文化芸術活動に対してより積極的に国や地方公共団体が支援し始めました。
この法律では3つの基本概念が打ち出されました。
1「本質的価値」、2「社会的価値」、3「経済的価値」です。
文化芸術の本質的な価値は、人間性を豊かにし、人間の心に不可欠なものであり、感性を育むものです。その他にも法律によれば、社会的価値や経済的価値として、教育、国際交流、産業、福祉、まちづくり、観光など、さまざまな分野と協力しながら文化芸術を考えていくことが大切だとされています。
企画のポイント
ここからは、企画のポイントとして重要なキーワードのご紹介がありました。
① 「参加」よりも「参画」
文化芸術に関する企画をおこなう際に、地域の人々が主催者とお客様という関係性になってしまうと、長続きしないことがあるそうです。持続可能な取り組みにするためには、想いを共有することが大切で、企画段階から主催者と地域の人々が一緒に関わって進めることが重要です。
② 文化芸術の得意分野
文化芸術の得意分野をどのように活かすのかを考えるのが大切です。得意分野としては「楽しさ」が一丁目一番地です。その他には、心を開く、仲良くなる、分野を超える、変わったことも受け入れられる、新しい視点をもたらす、新しい自分を見つけるなど、文化芸術には多くの得意分野があります。
③ スモールスタート
まずは仲間をつくり、熱を生み出していくことが持続の原動力になります。大きな規模での開催、多くの予算での実施は息切れしてしまうことも多いため、周りの仲間とできる小さなことからスタートしてみることも大切です。
④ 寛容になる
これまでにない試みを、地域の中でしようとすると、違和感が生じることがあります。そのときにいかに寛容になれるかが重要です。うまくいくかどうかはわかりませんが、まずは挑戦してみて、失敗しても大丈夫、というマインドでいること、そのマインドを皆で共有していくことが大切です。
寛容性に関連する報告として、LIFULL HOME'S総研の「寛容と幸福の地方論」があります。この報告書には、首都圏からのUターン意向や移住者の定着には、地域の寛容性が大きく影響しているという結果が示されているそうです。また文化芸術は寛容性を向上させるとも示されています。
文化芸術の企画を作っていく際に、いろいろな人を巻き込む際に摩擦がおこるのは必然で、そのときにいかに寛容になれるか、優しくなれるか、をポイントとして考えておくのが大切だということでした。
また、企画をどこから始めたらいいのかというときに参考になるのが、文化政策の研究者である中川幾郎氏による「自治体の文化政策の4本柱」が紹介されました。「市民文化」、「地域文化」が水平軸、「都市文化」、「歴史文化」が上下の軸にあります。地域で文化を育んでいくときに、まずは水平軸を育てていくことが地盤を作るうえで大切だと説いているそうです。
いろいろな方法や方向性で企画を考えることができますが、まずはどこから手を付ければいいかというときに、このような図をもとにして考えていくのも有効だと感じました。
全国各地の様々な企画
ここからは、「JAPAN LIVE YELL project」で実施された企画のほか、全国各地でおこなわれている文化芸術に関する様々な企画について紹介いただきました。
◆ちっちゃい焚火(京都府/ロームシアター京都)
ロームシアター京都で行われた屋外の焚火イベントです。アーティスト小山田徹の監修で、共有空間の開発がテーマです。孤立社会に共有空間を取り戻し、焚火を通じて異なる人々が交流できる場を提供しています。
◆古民家改修×アート(高知県/赤岡赤レンガ商家)
高知の歴史的建造物プロジェクトです。建築士がNPOを設立し、空き家を改修してコミュニティスペースにしました。ワークショップやイベントを通じて地域住民との交流を促進し、コミュニティづくりに貢献しています。
◆防災×演劇キャンプ(高知市/蛸蔵)
高知市にある蔵を改修した蛸蔵を会場にした防災・減災プロジェクトです。1泊2日のキャンプで防災体験を提供しました。段ボールハウスの作成や演劇の発表など、災害時の体験を共有し、防災意識を高める目的で実施されました。
◆歌声喫茶(福島県/Voice of Fukushima Fukushima)
福島県の仮設住宅地域で行われた歌声喫茶のプロジェクトです。震災後の孤独感をやわらげ、歌を通じて交流を促進しました。参加者がリクエストした曲を歌い、歌と会話を通じて異なる世代がつながることができます。
◆「マルモリ・ワンダリング!」(宮城県/えずこホール)
宮城県でまちの魅力を体感するプロジェクトです。ホールを飛び出してまちを巡り、地域の魅力や歴史を、詩を通じて共有しました。地域文化行政の広域行政連携を推進し、他地域へのワークショップ提供やサービスの実施も行っています。
◆地域の映画作り(長野県/まつもとフィルムコモンズ)
長野県の映像作家によるプロジェクトです。市民から集めた8㎜フィルムをデジタル化し、協働して映画制作をおこないました。地域住民とアーティストが作り上げた映画を通じて、対話とコミュニケーションを促進するプロジェクトです。
◆三陸国際芸術祭(東北沿岸3県/実行委員会)
三陸各地で伝統芸能を若い世代に知ってもらう・アピールするプロジェクトです。芸能催事や交流コースを提供し、外部からの参加者と対話も重視しています。
◆クロスプレイ東松山(埼玉県/デイサービス× 舞台制作団体)
埼玉県のデイサービスにアーティストが滞在できるスペースを設け、施設内での文化的な交流を促進しています。アーティストと高齢者の協働により、舞台作品の創作やワークショップが展開され、地域社会への貢献を図っています。
◆OiBokkeShi(岡山県/演劇団体)
岡山県の演劇団体が取り組む「老い」「ボケ」「死」をテーマにした演劇プロジェクトです。介護福祉と演劇の融合を通じて、異なる背景を持つ人々が舞台に立ちます。
◆犀の角(長野県/まちなかカフェ× ゲストハウス× 劇場)
長野県のまちなかカフェ兼劇場です。商店街にあり、アーティストによる演劇を通じて地域との交流を促進しています。ゲストハウスとしても機能し、アーティストと地域住民、旅行者の交流を実現しています。
◆Washi+(高知県/土佐和紙鹿敷製紙)
高知県で展開されるプロジェクトです。土佐和紙製紙会社がアーティストと協力し、和紙を通じた舞台芸術を推進しています。和紙製造に携わる地元の人々にもフォーカスし、文化的なイベントとして発展しています。
以上のように全国各地の様々な事例を紹介いただき、企画に関するヒントをいただきました。
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