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一般|教員のための俳句入門 鑑賞と創作と指導法のヒント

この記事は、日本俳句教育研究会のJUGEMブログ(2018.04.05 Thursday)に掲載された内容を転載しています。
参照元:http://info.e-nhkk.net/

nhkk事務局スタッフ:
皆様にぜひともご紹介したい「実際に使えるレポート」が届きました。ご参考になさってください。


谷口先生:

教員のための俳句入門ー鑑賞と創作と指導法のヒント(駿台予備校東京校 上野一孝先生)

 
体験レポート 福岡女学院中学高校 国語科 谷口奈々美

 三月三十一日、駿台予備校お茶の水8号館にて、受講した講座の中で授業のヒントになりそうな内容をレポートします。①時間目の「俳句入門」についてはかなり短くしていますが、とても密度高い講義で、俳句授業を始められる入門期の先生には、じかに受講されることをお勧めしたい内容でした。今回は授業実践としてのヒントとしてレポートしますが、また夏の講座で同じものが開講される予定と伺っていますので、興味を持たれた先生方には受講をお勧めしたい講座です。最後の全員での句会は既発表となるので今回は掲載を控えます。
上野先生、こまやかなご指導ありがとうございました。私も俳句の授業を改良してさらに実践を進めたいと志を新たにしました。

①俳句入門ー教育機会としての俳句

☆上野一孝先生

 駿台予備校古文科の講師。「杉」同人として森澄雄先生に師事、1993年より編集長。2010年「杉」退会、2011年相互啓発俳誌「梓」を創刊。複数大学でも講義をもたれ、小学生にも俳句の授業をなさることも。今回は駿台では今回初の試みとしての講座だそうです。

☆「俳句とは」

・ 俳句とは「創作」と「鑑賞」である。

・俳号の意味。
・「俳句とは」について、「有季定型」「無季俳句」については、表現する欲求を封じることはなく、いろいろな考え方があるだろう。
・「自然や文化を観察することを通じて自分がどういう空間にいるのか。」→結果的に「自分を見る」ことになる。「つらい状況でも自らを笑い飛ばす力もある」
・「兼題」「席題」「題詠」の考え方。
・学校で俳句の授業を行うとき、お互いに選をいただいたときに「ありがとう」「良かったよ」の声かけも勧める。他者の句を読む態度、自分の句も選ばないなど。

②「俳句鑑賞文読み合わせ」

A 事前に出された9句より選び、200字~250字程度で鑑賞文を書いて提出。

 1,亀鳴くを聞きたくて長生きをせり  桂  信子
 2,ふるさとやどちらを見ても山笑ふ 正岡 子規
 3,青き踏む海の青さも踏みたけれ   鷹羽 狩行
 4,入学の子に見えてゐて遠き母    福永 耕二
 5,人は死に竹は皮脱ぐまひるかな   大峯 あきら
 6,づかづかと来て踊子にささやける  髙野 素十
 7,金魚屋のとどまるところ濡れにけり 飴山 實
 8,小春日や杖一本の旅ごころ     村越 化石
 9,妻にある男友達三十三才      上野 一孝

※4番が三人、7番が二人、5番が一人、9番が二人、6番が一人、2番が三人、3番が一人。

Bそれぞれの鑑賞文を印刷してくださり、一句一句丁寧に説明頂きました。
なかでも、4番の「入学の子~」の句の視点は子どもの視界、母の視界、作者は男性であるので、
父親の視界ということもありますという三通りの解釈を話されました。
7番の「金魚屋」の句は、もう金魚屋はそこにはいない点では同じでも、「子どもが水を手に浸けていて溢れた水」や、「盥から溢れた水」の違いが鑑賞文に出てきて、やはり後者の鑑賞でありましょうとのこと。
 また鑑賞文の8番は、誰も鑑賞文を書いておられないが、「杖一本の旅ごころ」をどう読むか。これは作者の背景を知らないとなかなか読めない。作者はハンセン氏病で療養所の生活をされていた。遠くに行くことはできない。「杖一本」で歩くことすら旅心地なのだということを読む為には、作者の置かれた境涯を読むこともまた必要であろうとのことだった。
興味深かったのは、9番の「三十三才」を「鷦鷯」ではなく、「妻の年齢」として読まれた鑑賞文があり、6番の「踊子」を盆踊りの子と読むか、山本謙吉の解釈のように「ドガの踊り子」の作品のようにとるかで、また解釈が違ってくるということも示されました。

(感想と授業実践へのヒント)
1,前もって作品を選ぶ段階でかなり、作品を読み込みました。これは確かに生徒達にもさせられることだと。その場合は、前もってではなく、その場で読ませて書かせて、書いたものを印刷し、読み合わせていくということもまた有効だと思いました。前もってだとインターネットなどで調べたりするので、「読み」→「読み込み」ということをするためにはその場指導がふさわしいだろうと思われます。 教師が解釈をしなくても、生徒みずからが作品を読み、季語を確認し、作品世界を味わう「読み」の授業として有効でありましょう。
2,これは、近世作品を使えば、高校の古典の授業でも応用が利くと新たなヒントを頂きました。
3,中学では教科書作品を使うことで、すぐに応用できる実践となるでしょう。

③「なりきり句会」

あらかじめ「いまはじめる人の為の歳時記」をお送り頂き、この中やこれ以外の歳時記から、
自分の好きな句を三句出して送ります。重複したものには×がつけてあり、この中から二句を短冊に書いて、「作者になりきって清記」→「選句」→「披講」「点盛り」→「高点句」より合評会。二十六句出て、五句選。特選一句には二点、並選一句には一点。こうすると高点句が出てかなり会が盛り上がるという実感がありました。

(感想と授業実践へのヒント)
 こうして前もって選ばせておくことで、「名句で句会の手順を学ぶ」ときに、質問を受けたとき作者になりきって作品を語るという自分の「読み」がそこに存在するので、私が行っている「プリント配布の名句で句会」よりももう一つ深い体験ができるという可能性を感じました。ここは時間の関係で高点句しか句会の時間はとれませんでしたが、これは時間管理をすれば、学校の授業でも有効に使えると実感。「作者になりきる」という発想を取り入れて「名句を選ばせる」ことの意義を深く体験いたしました。

④「全員で句会」

 課題の当季二句と「席題」(風船・春雨・東風・遊・道・輝)より二句。一人四句出して、やはり五句選。特選一句には二点、並選一句には一点。
 時間の関係で、清記はしましたが披講なしで、選者が読み上げる形だったので、スムーズに会が進み、高点句だけではなく、先生から一句ずつの講評、添削のヒントなどを頂いた有意義な時間でした。午後の3時間があっという間に過ぎた充実した時間でした。


nhkk事務局スタッフ:
谷口先生からは、「このような機会に全く俳句を知らない現場の先生が俳句を楽しみ、授業で取り入れてくださるならば、生徒たちにも俳句が広がっていくであろうとこの取り組みに感謝しつつ帰福いたしました。」とのお便りも頂いております。

谷口先生貴重なレポートをありがとうございました。

ご自分が実際に授業でされるなら……という視点でお送り頂くことで、私自身も実際に授業に応用してみたくなりました。

また、勉強会等の記録や、ご実践内容などぜひ事務局までお寄せください。皆様からのお便りもお待ちしております。


■日本俳句教育研究会(nhkk)
「俳句」を教材とした様々な教育の可能性を研究する日本俳句教育研究会は、「俳句」を教材に教育活動を展開しようとする教師や俳句愛好家の情報交換の場になりたいと活動する任意団体です。

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