夢枕獏『白鯨MOBY-DICK』
副会長がブックバンによせていた「全く獏さんって奴は───夢枕獏著『白鯨 MOBY-DICK』書評」を読んでからずっと気になっていた一冊でした。
ジョン万次郎と、ハーマン・メルヴィルの『白鯨(原題:Moby-Dick)』の世界が融合して進んでいく物語です。メルヴィル本を未読のため、夢枕本の前にまずはそちらを読むべきか……と悩みましたが、その長さに加えて難解との前評判がネックとなり、二の足を踏んでしまいました。
夢枕本『白鯨MOBY-DICK』は、遭難したジョン万次郎を救出したのが、船長・エイハブ率いる米国の捕鯨船ピークオッド号だったという設定から、万次郎とメルヴィルの世界が交差されていくことになります。破綻なくエイハブの世界に万次郎が存在していることに驚きながら、面白く読み進めていきました。
万次郎に銛打ちを教えた半九郎や、エイハブなどの白鯨に狂わされた男達の物語なのですが、「美しい、白い、地球そのもののような」白鯨が、「人が、畏(おそ)れ、崇拝するもの。恐怖し、忌み、遠ざけようとするもの」「神と悪魔とに分かれる前の姿」として描かれていくのが印象的でした。
「白」という色について、「大きな哀しみの色」など様々な考察がある点も興味深く、物語が進んでいくにつれて、「白鯨」とは私たちが畏怖すべきものの象徴に他ならないとの思いを強くました。
そして、作家志望のイシュメールの台詞そのものを、夢枕獏さんが『白鯨』で目指したものとして読みました。
「自らの神話を生きるための旅の途上」にある私たちは、神とも悪魔ともつかぬ畏れの象徴を追って、船長エイハブのように進み続けるしかないのかもしれません。