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村田沙耶香『殺人出産』

この記事は、日本俳句教育研究会のJUGEMブログ(2018.10.06 Saturday)に掲載された内容を転載しています。by 事務局長・八塚秀美
参照元:http://info.e-nhkk.net/

前回好い出会いをさせてもらったので、引き続き村田沙耶香さんを。

思いもよらない……。これは近未来の日本なのでしょうか……。
人が人工授精でしか子供を産まなくなってしまった時代。偶発的な出産がなくなったことで、人口が減り、恋愛や結婚とは別に命を生み出す自然なシステムが必要となり、そこで作り出されたのが、10人産んだら1人殺しても良いという「殺人出産制度」。殺人の意味が大きく変わり、それを行う人が「産み人」として崇められる世の中です。

一方、「産み人」としての正しい手続きを取らずに殺人を犯す(命を奪う)と、「産刑」といって、男性も人工子宮を埋め込まれて、一生牢獄の中で命を産み続ける刑に処せられます。そして、「産み人」に殺される「死に人」は、皆のために犠牲になった素晴らしい人として送り出される……。未来の命をつなぐのが、殺意であるという驚きのスト-リーでした。

「産み人」として10人目の出産を迎えようとしている主人公育子の姉・環。姉自身も「産み人」から産まれているので、育子とは血が繋がりません。もちろん、他の産み人や死に人たちも話に絡んでくるのですが、さて、姉が抱いている殺意とは……。そして、象徴的な名を持つ育子の選択する道とは……。
命短いものの代名詞でもある「蟬」の使い方も絶妙で……。何が正しいのか間違っているのか……すっかり村田沙耶香ワールドに取り込まれてしまいます。殺人を真ん中に据えながら、おどろおどろしさを感じさせないのも驚きでした。

その他の3つの短編も、どれも想像を超えた驚きの設定! 朝井リョウさんなどの作家仲間が、村田沙耶香さんのことを、愛をこめて「クレイジー沙耶香」と呼んでいる理由の一つに触れられた気がしました(笑)