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佐藤泰志『そこのみにて光輝く』

この記事は、日本俳句教育研究会のJUGEMブログ(2020.09.27 Sunday)に掲載された内容を転載しています。by 事務局長・八塚秀美
参照元:http://info.e-nhkk.net/

綾野剛×池脇千鶴×菅田将暉出演、呉美保監督の映画『そこのみにて光輝く』の原作本で、第二回三島由紀夫賞の候補になった作品です。背表紙には「にがさと痛みの彼方に生の輝きをみつめつづけながら生き急いだ作家・佐藤泰志がのこした唯一の長篇小説にして代表作。青春の夢と残酷を結晶させた伝説的名作」とあります。

読んでみると、映画は、原作本の設定や登場人物であるものの、主人公の背負っている過去が原作の要素だけを借りた別のものであり、主人公の達夫は別の影をまとう人物となっていました。また、他の登場人物たちのエピソードもかなり組み替えや追加のアレンジがされていました。とは言え、読みながら原作と映画との違いの一つ一つに気付いていくことは、小説の様々なエッセンスを凝縮して組み替え、一本の映画として作り上げている映画の完成度に改めて気付かされることとなりました。

個人的にこれまでは、映画と原作を比べてみると、描ききると言う点では、どうしても尺の中におさめなければならない映画は原作には及ばないなという印象で、別の視点で切り取った新しい作品として味わうことが多かったのですが、今回の呉美保監督作品については、凝縮することで、より深く原作の芯の部分が伝わる作品になっている印象で、こんな映画化の仕方があるのだ! と驚かされました。もちろん、綾野剛さんはじめ俳優さんたちの演技あってのものなのは言うまでもありませんが。

世の中から蔑まされた場所で、底辺の生活を送りながら、ままならない現実の中を生きていく人間、家族との繋がり、そして愛情。そして、そこに確かに注がれている「光」。救いの小説であり、また、映画でした。