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朝井リョウ『何様』

この記事は、日本俳句教育研究会のJUGEMブログ(2019.09.22 Sunday)に掲載された内容を転載しています。by 事務局長・八塚秀美
参照元:http://info.e-nhkk.net/

朝井リョウさんの直木賞受賞作『何者』のアナザーストーリーで構成された短編集『何様』。文庫化ということで再読しました。

『何者』で光太郎の人生を決めさせることとなった初恋の相手とは。理香と隆良の出会いは。社会人になったサワ先輩。烏丸ギンジの現在。瑞月の父親に起こった出来事。拓人とともにネット通販会社の面接を受けた学生のその後の6編。『何様』を通して、『何者』が色付けされていく作品集です。

両書あわせて読んでみて、個人的に印象的だったのは、「それでは二人組を作ってくだ」ラストの理香の隆良への評価です。『何者』では、拓人と対極にあるような理香でしたが、前書ではうかがい知れなかった理香の本心が暴かれていて、理香という人物の奥深さや恐ろしさ、そして弱さを垣間見た気がしました。また、瑞月の父親に起こった出来事が、最終的に『何者』で瑞月自身に及ぼした影響を思う時、「むしゃくしゃしてやった、と言ってみたかった」という題名の軽さが余計に人間の人生のあやうさを象徴しているようにも感じてしまいました。

とは言え、「何者」かであろうともがいていた前書から一歩進んで、いまだ何者にもなれない自分を、何様なのだと突っ込むような味わいの「何様」では、現実を受け入れていく救いも用意されていて、ある意味読者の背中を押してくれているようにも感じました。

文庫版の『何者』と『何様』の表紙を並べると、面接の風景となっているのもなかなか心憎い演出でした。

そして、声を大にしておススメしたいのが、文庫版で追加されたオードリー若林正恭さんの「解説」です。解説を超えて「何様」的に若林さんが裸になってくれていて、一読の価値ありでした!