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中島京子『FUTON』・田山花袋『蒲団』

この記事は、日本俳句教育研究会のJUGEMブログ(2018.06.16 Saturday)に掲載された内容を転載しています。by 事務局長・八塚秀美
参照元:http://info.e-nhkk.net/

中島京子さんのデビュー作が、なんと日本の自然主義文学の代表作であり、私小説の出発点ともいわれる田山花袋『蒲団』のパロディだったとは!

『蒲団』は、妻も子もいる中年の小説家(竹中時雄)が、一方的にプラトニックな思いを寄せる女弟子(横山芳子)が男性問題で故郷に帰された後に、残された部屋で彼女の使っていた蒲団や夜着に顔をうずめて泣く話として有名で、実際にモデルがいたこともあり、「赤裸々な内面を大胆に告白」した面が取り上げられる作品です。

『FUTON』は、アメリカの花袋研究家であるデイブ・マッコーリーが主人公で、『蒲団』の時雄、芳子、そしてその恋人田中の三角関係(?)に似た関係が、デイブ、エミ、ユウキの中で繰り広げられます。しかし、三角関係と言いながらも、時雄の恋(のようなもの)は中年男の一方的なものですから、人物①→人物②への思いとして見るならば、時雄→芳子の関係に似たものは、『FUTON』の登場人物の中にいくつもの関係を見つけることができます。ウメキチ、イズミなど……いくつもの人物の絡み合いも読みどころです。

そして、何より面白いのは、合間に挟まれる、デイブ・マッコーリーの書く「蒲団の打ち直し」という小説です。これは『蒲団』では「旧式」の女性で名前も与えられていなかった時雄の妻目線で書かれたもので、「美穂」という名を与えられた彼女の煩悶が手に取るように分かります。そして、彼女が最後にたどり着く先が、これまた『蒲団』に書かれていなかった別次元の問題へと発展していきそうなところで終わり、そうきたか!、とうならされます。

『蒲団』から『FUTON』の順番で読まれることをオススメします。