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中村文則『教団X』

この記事は、日本俳句教育研究会のJUGEMブログ(2020.07.05 Sunday)に掲載された内容を転載しています。by 事務局長・八塚秀美
参照元:http://info.e-nhkk.net/

『文筆系トークバラエティ ご本、出しときますね?』を読んで、以前から気になっていた中村文則さんの『教団X』にやっと手を出しました。中村文則さん、初読みです。

文庫600ページに、様々な要素が入り込み、登場人物たちそれぞれが背負っている(哲学的とも見える)信念のようなものが、これでもか、これでもか、というくらいに丁寧に描かれていきます。とにかく作者の書きたいことが全て書き尽くされていく、という感じで、ここまで書ききったら、作家としては気持ちがよいだろうなという印象でした!

物語で語られる、科学的思想や宗教的思想、そして、世界状況の分析などなど……、示唆に富んでいて、そこらを細かに丁寧に読んでいくと、600ページ以上の読み応えのある作品です。

物語の進んでいく方向、そして、彼らを動かしていく過去や思想などが、いわゆる世の中の暗部を抉り出していくようなものなので、一体この小説はどこに向かっていくのだろう……と思いながら読み進めていきましたが、結末の着地点が、ままない世の中にあって、人間そのものを信じたい作者自身の希望を見るようで、救われたような気になりました。

最後に語る人物も、それまでの登場人物たちへのスポットの当たり方でいえば意外でありながら、いや、やはりこの物語の全てを背負いきるには、この人でなければならなかったのだな……と妙に納得させられました。