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松竹1975年「スプーン一杯の幸せ」(その2)

2021年5月に発表したお題「映画感想文」の記事:松竹1975年「スプーン一杯の幸せ」について、最近面白い記事を読みましたので、「その2」と題して追記します。

面白い記事というのは、こちらです。
初主演映画の企画が正式に発表された桜田淳子に対するインタビュー記事ですが、そのインタビューがなされたのが、おそらく芸能マスコミ向けの製作発表会見があった直後のことだったのでしょう。その発表内容が公開作品とはずいぶん異なっていましたので、その相違点を追ってみようと思います。(文中すべて敬称は略します。)

近代映画1975年3月号より

相違点1.監督と脚本

まず記事の冒頭でおやっ・・と思うのが「メガホンは南部監督、脚本は山根成之氏のコンビ」との記述。実際にメガホンをとったのは広瀬襄でしたので、南部英夫はメガホンをとっておりません。また「愛と誠」などこの時代の松竹アイドル映画を多く撮っていた山根成之は、メガホンをとる予定だった南部英夫と、この「スプーン一杯の幸せ」の原作者である落合恵子と共に、共同脚本のメンバーの一人となっています。南部英夫は1976年の「愛と誠・完結篇」が監督デビュー作とのことですので、もし当初の予定どおりだったとしたら、この「スプーン一杯の幸せ」が監督デビュー作になったことでしょう。また、当初は落合恵子が脚本陣に加わることは考えられていなかったこともわかります。このあたり、どんな経緯があったんでしょうねえ?

相違点2.クランク・イン

この記事では(1975年)2月17日を予定していると書かれていますが、私が所蔵している「近代映画6月号臨時増刊」では、実際のクランク・インは3月3日だったと伝えています。このぐらいの順延はあたりまえのことなのか、それとも特別なことなのかはわかりませんが、おそらく監督と脚本陣の変更が影響したのでしょう。

相違点3.ストーリー

この記事に書かれている「かんたんなストーリー」と、実際の作品との違いは以下のとおりかと思います。
・場所(作品の舞台)は地方都市から東京の下町(上野周辺)に変更されています。主人公が小料理屋の娘という設定は変わっていません。
・ただし、主人公の父親が政界の大物で、母親はその二号という設定は変更されています。この「父親が大物政治家」という設定は原作者・落合恵子の境遇に重なりますが、実際の作品では父親は画家であり、母親と離婚後に再婚して伊豆で暮らしているという設定です。
・主人公が心ひかれる新任教師は、この記事では「はつらつとした青年教師」と表現されていますが、実際の作品では、この役は黒沢年男が演じました。黒沢年男が「はつらつとした青年教師」であるかについては、いかがお考えでしょうか?
黒沢年男は1944年生まれなので、この年31歳です。前回も書きましたが、この年齢差は当時中学生の少年だった私には置いてきぼりを食わされたような気分になりました。これがもう少し年上(つまり桜田淳子と同年齢の17歳前後)の少女から見ると自然な年齢差に感じるものなのかよくわかりませんが、感覚的には「青年教師」に映るとは思えないのですが・・。これはおそらく思慕をよせる主人公の母親は浜木綿子であり、本人は1935年生まれで同40歳だったので、この「先生と母」の年齢バランスを勘案した結果、「娘と先生」のバランスがアイドル映画離れしてしまったように思うのです。
ちなみにインタビューにおいて桜田淳子は「テレビの『われら青春!』の沖田先生(中村雅俊が演じました。)のような人だったら最高なんだけどなあ」と語っています。私もそう思います。
かの三浦友和は1952年生まれで、この年23歳。中村雅俊は1951年生まれで同24歳です。このあたりの年齢が女子高校生にしてみれば自然にあこがれの対象になりえる年齢かと思いますし、この時代の淳子ファンの少年にしてみれば「まあ、しょうがないよな」と口をとがらせつつ納得するところかと思うのです。

4.主題歌

「目下(原作者の)落合恵子さんの作詞で製作中。3月5日に発売予定です。」と書かれていますが、実際の主題歌は作詞:阿久悠/作曲・編曲:筒美京平の「ひとり歩き」でした。ただし、このレコードのB面は作詞:落合恵子/作曲・編曲:高田弘の「涙のいいわけ」ですので、たぶんこちらが目下製作中だった主題歌予定曲かもしれません。

発売日は1975年3月5日と変更されていません。このあたりの変更の経緯も興味深いところですが、まあ想像するしかありませんね。
「涙のいいわけ」も失恋から立ち直ろうとする少女の曲で、映画のストーリーに準じた詞になってはいるものの、パンチ不足の感は否めません。

近代映画6月号臨時増刊より。

主人公の桜田淳子は、気持ちの整理をつけるために実父のアトリエ近くの海岸に終夜たたずみ、夜が明けると、このグラビアのように海岸で朝日を見つめながらスローテンポにアレンジした主題歌を口ずさみます。
そして朝日がのぼり周囲が明るくなるにつれて失恋のキズも癒え、「先生のバカァ~」と怒鳴って気持ちを吹っ切るあたりで、主題歌がアップテンポに変わります。このときの主題歌は「涙のいいわけ」よりも「ひとり歩き」のほうがしっくりするように思うのですが、これは既視感があるからかもしれませんね。

前回もご紹介したとおり、「スプーン一杯の幸せ」は私が生まれて初めて「一人で」「映画館で」見た映画だけに、私にとって印象深い作品です。
ただ、桜田淳子の初主演作品としてはストーリーに相当な不満があったのも正直なところです。

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