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31_2ndプロジェクトの始まり 【山の日本語学校物語】

これは、とある町に開校した「山の日本語学校(仮名)」の物語です。PBL(Project-Based Learning:プロジェクト型学習)を通して、ITエンジニアがどのように言語を学び、専門性を身につけていったのか、また、語学を専門とする日本語学校が、どのような組織として、専門領域や地域社会と結びついていったのか、さらには、そこでの教師の役割などを探究していきます。

下記のマガジンで連載しています。


前回(26〜30回)までは、2ndプロジェクトをどのようにデザインしたのかについて説明しました。今回からは、実際のプロジェクトの様子について書いていきたいと思います。本記事では、1月10日〜12日の3日間に行われた「オリエンテーション」を中心に書きたいと思います。

新しいプロジェクトを始めるとき、いちばん緊張し、なおかつ力を注ぐのは、実はこのオリエンテーションです。オリエンテーションで、プロジェクトの目的や今後何をすればいいのかを理解してもらいます。さらに、学生たちのやる気に点火をしなければなりません。同時に、学生たちの様子を注意深く観察し、本当にこのプロジェクトが進められるのか、ボトルネックになるのはどこかを見極める必要があります。

ということで、オリエンテーション期間は、実際にコンセプトに関連した簡単なタスクを与え、それに対してどんな反応をするのかを、注意深く観察しています。本記事では、オリエンテーション期間の授業記録を中心に、以下の観点でまとめてみたいと思います。

  • タスク内容:どのような意図を持って、タスクを考えたのか

  • 学生の反応:タスクに対して学生がどのような反応をしたのか

  • 判断:タスクに対する学生の反応に、私がどのような判断をしているのか

オリエンテーション中のタスク

オリエンテーションは、2期目が始まった1月10日〜12日の3日間を当てました。オリエンテーションに3日間というのは、少し長いかもしれませんが、2ndプロジェクトは、1stプロジェクトと全く違う活動を予定していたため、時間をかけて理解をしてもらう必要があると思いました。この3日間の中で実行した主なタスクは、以下の3つです。

  • 卒業までの目標設定

  • プロジェクトの概要説明

  • ゲストスピーカーとのセッション体験

本記事では、はじめの2つのタスクについて説明します。

卒業までの目標設定

1月10日の初日は、2ndプロジェクトのコンセプトの説明はしませんでした。それよりも先に、学校卒業後、何をしたいのかを具体的にイメージし、それをもとに、在学期間に何をしなければならないのかを考える機会を持ちました。

1stプロジェクトでは、プロジェクトを自分ごと化できずに、「やらされている感」があったことについてはすでに書いたとおりです。学生たちにとって「プロジェクト型学習」は、初めての経験であり、これまでに経験した言語学習とは、全く違った学習形態でした。この点について学生自身がどのように思っているのか非常に気になるところです。そこで、1stプロジェクトが終わった段階で、学生一人ひとりにインタビューをすることにしました。

といっても、「プロジェクト型学習」は、私が中心となって進めていたため、プログラム設計の当事者である私がインタビューを行っても、率直な意見は出てこないだろうと考えました。そこで、インタビューは、プロジェクトに直接関係していなかった教師にお願いしました。

その結果、「プロジェクト型学習」を肯定的に捉えている学生がいる一方で、文法や語彙などの授業をしてほしいという意見があったり、テキストや宿題がないと「何を勉強したらいいかわからない」という問題を抱えていることもわかってきました。

テキストがあり、何を勉強すればいいか明確に提示されていれば、確かに勉強はしやすくなります。だからといって、勉強する内容を私が考えて「与える」ことで、この問題が解決できるとは思えませんでした。何を勉強すればいいのか、自分自身で考え、自ら学習計画を立てていけるようにならなければ、主体性は育まれません。ここを乗り越えなければ「やらされている感」は、拭えないだろうと考えました。

そこで、プロジェクトに入る前に、まず、自分が何をしたいのか、そのために何が必要なのかを学生自らが認識することが必要だろうと考えました。そのためには、卒業後を見据え、自分のキャリアに目を向けさせることが必要です。2ndプロジェクトの目標と合致する視点です。

当時の記録には、以下のように書かれていました。

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