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オンライン授業に取り組めない学習者の阻害要因を考えてみた

コロナ対策による授業のオンライン化が一般的になって、はや半年が経ちました。

現在、私も、非同期と対面授業を組み合わせたハイブリッド型の授業を行っています。といっても、コロナ対策というわけではなく、以前から計画していたことです。それでも、実際に回り始めるまでいろいろな障壁がありました。

通常、オンラインで授業を行うとき、オンラインの学習環境が整っている学習者が受講します。また、オンラインで受講すること自体がインセンティブになっている学習者も多いのではないかと思います。

しかし、今回の私のケースでは、そもそもオンラインで授業をやると考えていなかった受講生を巻き込んで、クラスを成立させる必要がありました。私自身は、最適な方法だと考えて提案したことですが、全員参加に持ち込むのは、予想以上に大変なことでした。特に、非同期のオンライン授業においては、受講生本人の主体的な取り組みが学習に大きく影響するため、どのように継続的に学習にコミットさせるかに、現在も頭を悩ませています。想定外の障壁もいろいろとありました。

そこで、今回は、これまでの試行錯誤を整理して、「オンライン授業を阻むものは何か」について考えてみたいと思います。

ここでは、オンライン学習を阻害する要因を、大きく以下の3つに分けて考えてみたいと思います。

- 物理的な環境問題
- ITリテラシーの問題
- 心理的な問題

なお、具体的なツールやコンテンツについては、クラス全体の背景や目的等の説明も必要になるため、今回は、特に触れません。

物理的な環境整備の問題

今回、担当した受講生は、来日して日が浅かったということもあって、オンライン授業を開始した当初の学習環境は、以下のようなものでした。

- 所有するデバイスは自国から持ち込んだAndroid端末(スマホ)
- キャリア契約をしている人は皆無
- Wi-fi環境は寮のみ
- PC所有者はなし

このような学習環境に対応するためには、コンテンツは、スマホで使えるようにレスポンシブ対応をしている必要があります。スマホ画面で見やすいことを第一条件に考えました。

また、私は、iPhoneユーザーなので、アプリなどのツールを選ぶとき、Android端末でどのような動きをするのか試すことができませんでした。直接会うことが難しい時期もあったため、受講者がツールをどのように使用しているのかを把握するのにとても苦労しました。

しかも、常にWi-fi環境にあるとは限らないので、オフラインでも使えるツールを選ぶ必要がありました。また、必要なアプリが、メモリ不足でダウンロードできないというケースもあり、結構、心が折れかけました(笑)

最終的に、関係者からの協力も得られ、この半年でだいぶ環境が整ってきました。また、キャリア契約する受講生も徐々に出始めました。中には、iPhone11を購入した受講生もいます。(ちなみに、私は7) 現在は、物理的な環境は、ほぼ解消されました。さすがに、スマホネイティブ世代にとって、スマホはなくてはならないものなんでしょう。ということで、スマホ使用前提で学習環境を設計しています。

ITリテラシーの問題

とはいえ、かなり個人差はありますが、受講生のITリテラシーの問題も学習に大きく影響しました。特に下記に注意が必要でした。

- アカウントの管理
- 多言語対応

まず、最初に苦労したのがアカウントの管理です。Android端末であれば、Googleアカウントは持っているだろうと予想し、実際持ってはいたのですが、これが結構うろ覚えだったり、自身で把握していなかったりして、全員のアカウントを確認するのに時間がかかりました。メールはほとんど利用していないこともわかりました。

となると、パスワード忘れた問題も発生します。アカウントはあるけど、パスワードを忘れたので、ログインできない…ということも、初めのうちは頻出しました。

また、私が把握したのと別のアカウントでログインしようとして使えないとか、ログインできなかったので、もう一つアカウントを作りました… というケースもあり、受講生一人につき、アカウント3つくらい登録するというケースもありました。

ということで、使用するアプリのアカウント登録の問題を考えると、アカウント登録の必要ないツールやアプリ数を厳選するなどの工夫が必要でした。

実際に対面で使い方のレクチャーができないので、なんとか受講生自身が試行錯誤して、使い方を学んでもらわなければなりません。そこで、アプリは、多言語対応をしているアプリを選び、受講生のスマホで設定されている言語で表示されるものにしました。(結果、使用したのはGoogle系のアプリが中心になりました)

そんなこんなで、ようやく全員が、オンラインで授業ができる環境が整いました。ここまで、想定以上に時間がかかりましたが、今では受講生もだいぶ慣れてきたように思います。

心理的な要因を乗り越えるための工夫

環境が整ったところで、受講生の様子を見ながら、少しずつ使用するツールを増やしていきました。全員がアクセスできているのを確認してから、新しいツールを導入するようにしてはいたのですが、初めの1回はアクセスしても、ログを確認すると、それ以降のアクセスがないということもよくありました。これは、心理的な要因が関係していると考えられます。また、ここがいちばんの課題でした。

いくつか原因が考えられました。ざっくり言うと、モチベーションの問題になってしまうのかもしれませんが、「モチベーションが低い」という判断で片付けてしまうのがはばかられるくらい、いろんな要素が絡み合っているように感じたので、一つ一つ原因を潰していくことにしました。

- 課題の指示が理解できない(あるいは、理解するのに時間がかかる)
- ツールの使い方がわからない(あるいは、使いにくい)
- コンテンツがおもしろくない
- 学習時間がない
- 学習の意義を感じない

ざっとまとめると、上記のような原因があったように思います。以下に、これらに対して、私がしたことを説明します。

課題の指示が理解できない
非同期のオンライン授業だと、指示はテキストベースになります。また、補足の説明をする機会もあまりありません。いくら、多言語対応していても、課題に対して何をするのかという指示をテキストから読み取らなくてはなりません。わからなかったら、コピペして、Google翻訳にかければいいと単純に考えていたのですが、意外とそれをしている人は少ない、ということがわかりました。

日本語の指示が、パッとわからないと、面倒くさくなって、そこで諦めてしまうケースが多いこともわかりました。そこで、日本語の他に、受講生の母語も併記するようにしました。(Google翻訳様、Deepl様、いつもお世話になっております)また、スクショを撮って画像を貼り付け、視覚的に示すこともしてみました。

ツールの使い方がわからない
多言語対応しているツールを提供しても、そもそも複数のアプリを併用して学習を進めるというスタイルに慣れていない受講生もいました。普段、スマホで使用しているのは、SNSが中心で、言ってみれば、スレッドに流れてくる情報を眺めているだけでも楽しめます。

しかし、学習ということになると、目的のために自らツールを使いこなさなければなりません。慣れていない複数のアプリを併用して学習するというのは、かなりハードルが高いようでした。ちょっと、使い方が複雑になると、「わからない」「難しい」とあきらめてしまうように思いました。はじめに、ログインで苦労した受講生は特にその傾向がありました。

そこで、課題にはリンクを埋め込み、タップをすると、自然と別のアプリに移動できるようにし、なるべくタップする回数を少なくして、使用のハードルが低くなるようにしました。そのためには、アプリ同士が連携しているもの(または、コンテンツのURLを取得できるもの)を選ぶ必要がありました。

コンテンツがおもしろくない
これは、オンライン特有の問題とは言えないので、とにかくあれこれ試して興味を引きそうなコンテンツを探るしかありません。そこで、手を替え品を替え、いろんなパターンのコンテンツを用意し、様子を見ながら反応の良いものを厳選していきました。(が、ツールはあまり増やせない)

しかし、これは次の「学習時間がない」という問題とも関係しますが、おもしろそうな動画を提供しても、見終わるまでに時間がかかったり、考えたり、創作したりする要素を取り入れ、課題が完了するまでに時間がかかるものは、課題の提出率が悪いという結果にもなりました。

逆に、それほどおもしろいと思えないものでも、タップするだけで終わるような単純な課題は、提出率が高かったりしました。単に、おもしろさや意義(あくまでも、私が考えるおもしろさや意義になるのですが)だけで決められるものでもないということもわかりました。課題を完了するまでに、どのくらいの時間を費やすのかも、課題を作成するときに考慮する必要があるということに気がつきました。

学習時間がない
受講生は、働きながら学んでいるので、やはり学習時間を捻出するのが難しいようでした。スマホで学習ができれば、いつでも、どこでも、隙間時間に学習ができると考えたのですが、どんなに簡単に取り組める環境を作っても、最終的にはモチベーションが大きく影響するように思いました。個々の受講生が、自身の生活の中で、何に優先順位をおいているのかということとも関係するため、学習への取り組み自体がルーチンになるような工夫も必要だということにも気づきました。

学習の意義を感じない
これについては、私も反省するところがあります。オンライン授業を成立させることが優先されてしまい、最終的なゴールやカリキュラムの全体像など、学習者がきちんと納得するように説明ができていなかったと思っています。

また、オンラインと対面授業のバランスも重要だということにも気がつきました。初めは、オンラインの授業でできないことを対面授業でやろうとよくばって、話すことやグループ活動をメインに授業を設計していたのですが、徐々にオンライン授業のフォローとして、対面授業を位置付けたほうが、オンライン授業の意義を感じてもらえるということがわかってきました。

今では、モチベーションを上げるための仕掛けとして、対面授業を位置付けるのがいいんじゃないかなーと思っていますが、やはり、オンラインより対面授業のほうがいいという受講生は多いのも事実です。(対面授業の時間がなかなか確保できないという事情もあるのですが…)

学習を阻害する心理的な根本要因とは?

このように、細かいアップデートを積み重ね、今では、多くの受講生が、オンラインの学習に意義を感じ、自ら取り組んでくれるようにはなりました。しかし、それでもなお、どうしてもアクセスしない受講生がいます。

アクセスのない受講生も、決して、やる気がないわけではありません。対面授業では非常に意欲的で、職場での評価も高いようです。

なぜ、アクセスしないのか????

学習意欲もあり、ツールが使えていることも確認しました。それでも、アクセスがないという場合の阻害要因は何か? 様々な可能性を考え、いろいろと試してみたのですが、先日の対面授業で、ついに、これか!と思われる原因に遭遇しました。

今回の対面授業では、オンラインの授業で、ほとんどの受講生がつまづいた部分があり、それについてフィードバックをしながら、考えていた時のことです。今までほとんどアクセスしなかった受講生が、急にスマホを見て、何やら操作を始めました。そして、スマホで回答しながら、課題を考え始めたのです。で、無事、課題をクリアすることができたのですが、私が、「これ、事前に課題について考えていたら、もっと理解が深まったんじゃない?」と問いかけると、以下のような一言が返ってきました。

「私は、本で勉強するのが好きなんです。スマホは、勉強するためのものではありません」

いや、待て、そこか??

予想外の言葉に、一瞬答えに詰まってしまいました。日本でiPhone11を購入して、スマホで動画なども作っていたので、学習に使用することにも抵抗はないはずだと思い込んでいたのです。

もしかしたら、これがキャズム理論で言うところのラガード様か?と、いろんな思いが頭を巡りました。

思い起こせば、多くの受講生に、スマホで学習することが受け入れられたと感じたきっかけがありました。それは、私が対面授業にPCを持っていくのを忘れ、仕方なく、スマホをプロジェクターに繋いで授業をしたときのことです。もともと、スマホで使うことを前提に設計していたので、PCでなくても、特に問題なく、授業を進めることができました。

その時、受講生は、実際に私と同じようににスマホを操作しながら、授業に参加しました。アクセスが難しいと言っていた受講生も、難なくアクセスすることができ、スムーズに操作することが確認できました。「おー、すごい」という反応もありました。確か、その一件から課題への取り組みが積極的になったように思います。これまでとは違ったスマホの使い方を体験したのかもしれません。キャズムを超えたとも考えられます。

しかし、継続的にアクセスするようになった受講生が増えた一方で、再びアクセスしなくなってしまった受講生数名が取り残されることになりました。ここをどう乗り越えるかに、非常に頭を悩ませていたのです。

今回の受講生の一言により、オンライン学習を阻害していたのは、単純に学習スタイルや、それまでの学習経験の積み重ねで培われた信念の違いだったのかもしれないということに思い当たり、これがラスボスだったのか?と妙に納得してしまったのです。

学習を阻害するものをどう捉えるのか

今回の取り組みで、私がこだわっていたことの一つに、「強制しない」ということがありました。「学校」という場の学習ではないため、取り組まなくても成績や単位に影響することはありません。勤務先に連絡して、オンライン授業に取り組むように促してもらったり、何かテストの点数のようなもので、強制力を高めるということも手段として考えられました。しかし、受講生自らが納得し、「学びたい」と思わなければ、継続的な意義のある学習は無理だろうと考えました。

そこで、強制的に何かをやらせる、ということは、できる限り排除しました。その代わり、受講生へのアンケートやヒヤリングをもとに、考えられる原因を一つ一つ洗い出し、潰していくことによって、前述したように、ちょっとずつ、アップデートしていくという方法をとりました。

これまでのオンライン授業では、オンライン授業を希望する人を中心に、PC利用を前提とした環境設計がされてきました。授業を楽しく、おもしろくするためのツールもたくさん開発されています。しかし、今回のコロナ禍では、ほぼ強制的にオンラインへの対応が迫られ、様々な学習観を持った人を取り込んでいく必要が出てきました。その中には、PCを所有していない学習者も含まれます。

今回は、スマホの利用を前提として、環境設計をしたのですが、いくらスマホの所有率が高いと言っても、なかなか思いどおりにはいきませんでした。これまで、スマホでは、写真や動画を撮ることが中心だった人もいると思います。ゲームをするためのツールでもあるかもしれません。

SNSを中心に利用していた人は、スレッドに流れてくる情報の中から、興味のあるものにアクセスするという受動的な使い方しかしていなかった人もいるかもしれません。しかし、今後は、目的のために、自ら手を動かして必要なツールにアクセスし、能動的に情報を入手するという使い方に、意識を変えていく必要が生じてきます。スマホの使い方に対する認識もアップデートする必要があったのです。

今回私が遭遇したような、オンライン授業に参加する環境が整っていなかったり、ツールの使い方に慣れていなかったり、はたまたオンライン授業に対して懐疑的な考え方を持っている学習者には、これまでなかなかリーチする機会がありませんでした。このような学習者は、そもそも議論の対象にならないことも多かったように思います。オンライン授業では、アクセスがない学習者は、存在しないことになってしまうからです。

本人の学習環境やツールへの習熟度については、教師にはどうしようもない部分かもしれません。また、学習環境に考えが及ばず、本人のモチベーションが低いという判断が下されてしまうこともあるかもしれません。(今回、私もそう判断しかけました)

しかし、今のような、時代の転換期にあっては、その要因をきちんと把握していかないと、思いもよらない学習阻害要因が隠されていることがあるのだ、ということに気づきました。

今回のケースも、もっとよく観察していけば、もっと別の阻害要因が見つかるかもしれません。私自身、これまでは、対面の授業が中心で、学習者と密に話したり、観察したりする機会が多くありました。学習を阻害しているものも把握しやすく、また、対話を続けることによって、その阻害要因を解消するよう働きかけることもできました。ここが私の得意分野でもありました。

しかし、オンラインが中心となったとき、どうやって学習者と関係性を作り、モチベーションを上げていくのかを、これまでとは違った、ツールの利用方法や新しい使い方に対する心理的な溝といった新たな視点で考えることも必要なんだなと今回の取り組みで考えさせられました。

オンライン授業については、もっと上手にツールを使いこなし、魅力あるコンテンツでうまく受講生を巻き込んでオンライン授業を進めていらっしゃる先生方も多いのではないかと思います。まどろっこしいことをやっているなと思うこともあるかもしれません。それでも、私の経験も何かの参考になるのではないかと思い、まとめてみました。

今回も長くなりましたが、最後までお読みいただき、ありがとうございました!

共感していただけてうれしいです。未来の言語教育のために、何ができるかを考え、行動していきたいと思います。ありがとうございます!