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【第16回】満足感のある授業をつくる① 3つのヒント

~教育学者から看護教員へ~

 今回から、学生の学習意欲を引き出す授業設計モデル「ARCSモデル」の最後となる「S(Satisfaction:満足感)」になります。具体的には、心の内側から湧き上がってくるような満足感(内発的な動機付け)、外側から与えられる満足感(外発的な動機付け)、そしてそれらを支える公平感があります。
 学んで良かったと思えること(学びの満足感)は、学んだことを大切にしていこう、もっと学ぼう、学び続けようという気持ちにつながります。

ヒント10「成長や価値を実感させる」

 内側から湧き上がってくるような満足感を得るためには、「できるようになった!」「学んだことに価値があった!」と実感できることが挙げられます。
 前者は成長の実感です。単純に自分のテストの得点が何点だったか、技術課題の出来栄えはどうだったかなどのフィードバックを受けることも、満足感につながります。継続的なテストを通じて、徐々に得点が上がっていくことを実感できれば、学生は自分の努力が報われたという満足感を得られるでしょう。あるいは何度も繰り返して練習することで、チェックリストによる評価結果がだんだんと改善されていくことにも喜びを感じるはずです。学生の成績が良いようであれば、より難度の高い課題に挑戦させることも有効です。
 後者は価値の実感です。自分が学んだことの意義を理解することで、満足感が高まります。例えば、現実的(実践的)な場面で学んだことを活用する機会を与えることが考えられます。国家試験の過去問を解かせるというのは一般的な方法ですが、獲得した知識を使ってケーススタディを解かせることも実践的で有効でしょう。

ヒント11「報酬を与える」

 教育で使える最も一般的な報酬は、褒め言葉です。できていない点を指導することは多いのですが、案外、できている点を認める(褒める)ことは、できていないことを指摘する(助言・指導する)ことに比べて少なくなりがちです。また、できるようになった点につい てフィードバックすることも重要です。

 フィードバックを効果的にするためには、具体的に伝えることが望ましいでしょう。1つの方法としてSBIフィードバックがあります。Situation(状況)⇒ Behavior(行動)⇒ Impact(影響)の順にフィードバックをするというものです。例えば、「ディスカッションで誰も意見を言わずにシーンとしてしまったときに(状況)、○○さんが口火を切って話してくれたおかげで(行動)、他の人からも意見がでるようになりましたね。(影響)」といった具合です。

 フィードバックは教員だけのものではありません。例えば学生同士でしあうこともできます。グループワーク後の振り返りの時間でお互いにフィードバックしあう時間をとっても良いでしょうし、その時間が取れない場合は、リフレクションシート(ミニッツペーパー)等に書き込んで提出してもらっても良いでしょう。提出されたものの中で、他の学生の参考になるものがあれば次の授業で紹介するという方法もあります。

 報酬は褒め言葉だけでなく、ちょっとした景品(お菓子など)や、特別加点といった形で与えることもできます。例えば、一番良いプレゼンテーションをしたチームメンバーにチョコレートをプレゼントしたり、自主的に手を挙げて発言すれば+1点するといった方法です。ただし、このような外発的動機付けは、内発的動機付けを妨げてしまうリスクもあることが報告されています。例えば、加点がなければそのような行動をとらなくなってしまうという危険性があるということです。特別加点は乱発せずに、ここぞ!というタイミングで活用したいものです。

ヒント12「公平性を担保する」

 公平性の1つは、目標と評価が適切に結びついていることがあげられます。例えば、授業の範囲外の問題や、あまり意味のないひっかけ問題が出されると学生は不満に感じるでしょう。あるいは、授業の目標の1つに「コミュニケーション力を高める」と掲げているのに、成績評価はテスト100%となっていれば、学生はコミュニケーション力を高める努力をしなくなるでしょう。目標と評価が適切に結びついていることは、学習意欲の向上にもつながるのです。

 とりわけ、評価は公平性に大きく関わります。他人が特別扱いされている、贔屓にされていると感じたときに、意欲が落ちてしまったという経験はないでしょうか。学びの場においても、同じことが起こりえます。評価が高い理由が「聞き分けが良いから」とか「先生に気に入られているから」となってしまっては、学習意欲も下がってしまいかねません。やもすると「聞き分けを良くする」「先生に気に入られる」ことが目標になってしまいかねません。教員にその気はなくとも、学生がそう感じてしまうということもあるため、とりわけ気をつけたいものです。看護教育では実習等において、個々の学生を別々の教員が評価することも多いでしょう。すると「あの先生は評価が甘くて羨ましい」「この先生は評価が厳しいから嫌だ…」というように教員毎の評価差が不満の種になってしまうこともあります。

 不公平感を与えないシンプルな方法の1つは、評価基準を明確にすることです。ヒント7「成功の条件を示す」と共通する部分ですね。〇×問題や多肢選択問題など、正答が明確に決まっているものであれば基準がぶれることはありませんが、レポート、プレゼンテーション、実技等の質を評価する場合は、不公平さを感じやすくなります。チェックリストやルーブリックを用意し、それらを用いて評価し、フィードバックすると公平感が高まるでしょう。
 さて、そのルーブリックですが、うまく作るにはどうすればよいかというご質問をいただくことがあります。人によって躓く点が異なりますが、ルーブリック初心者向けのアドバイスとしては、以下のようになります。

①既存にあるルーブリックを参照する(同僚が使っているものを見せてもらったり、インターネットで検索して発見する等)
②過去の学生の成績を踏まえて作成する(例えば、A、B、C評価だったレポートを並べて、なぜその評価にしたのかを言語化してみる)
③評価の観点(規準)は可能な限り絞る(観点が多すぎると、評価負担が大きくなるため。評価対象にもよるが、最大で5つまでを目安としたい。)
④評価の尺度(基準)は3段階で作る(素晴らしい状態と、ダメな状態を言語化し、その間の状態を言語化する。それぞれを5点、3点、1点とし、各基準の間を4点、2点とすることで5段階評価も可能になる。その際、4点や2点の基準を必ずしも言語化する必要はない。)
⑤特別加減点欄を作る(用意した枠組みでは評価できないような点があれば、ここで調整する)
⑥試しに使ってみる(学生に自己評価させてもOKです。教員間で使用した感想を共有しあっても良いでしょう。使用感を確かめて修正することで、より”使える”ルーブリックになります。)

 評価基準が明確になると、ヒント10、ヒント11にある、内発的および外発的な動機付けもしやすくなります。公平性を担保するというだけでなく、学習者の意欲を引き出すという観点からも評価基準を明確にし、有効活用していきたいものです。

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