海から帰ると・・・
街が嫌になった
街を出て歩き続けた
とうとう海まで来てしまった
波打ち際の浜辺を歩く
波が足を誘っている
まっすぐ歩いているつもりが
だんだんと海の方へ入っていく
もう腰のあたりまで浸かった
引く波に足を攫われる
引き返そうとも思わない
自然のままにすっぽりと海に
海底を歩き続けて水面は
見上げれば遠く光っている
歩き続けると魚たちが寄ってくる
もの珍しくボクを囲む
ーどこからきたんだい
ーおよげないのかい
ーおかえりな
魚たちみんなが陸へと誘う
そうかあ、ここはボクの居場所じゃないな
浅瀬の方へと歩き出す
魚たちもついてくる
とうとう水面から顔が出た
ふらふらと砂浜を歩き
もと来た道を歩き続けた
そして街へと入った
どこにも行く当てはなかった
けれどもいつも買いに行っている
パン屋さんに入ってしまった
「お、陸にあがったかい、お帰りい」
パン屋のおじさんは、ニッコリと笑った
ボクは不思議な心もちだった
知ってるのかな
人声の絶えない夕暮れの街なか
夢のように歩き続けた
おじさんの声と笑顔は
ボクの住処を探すための
灯をかざしてくれた
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