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AOKIのパジャマスーツ戦略の鍵は生産におけるケイパビリティの適合性にある

今回は、紳士服のAOKIが「パジャマスーツ」を戦略の柱にすえて、年間売上100億円の増加を狙うというニュースについて戦略を読み解きます。

ここからは例によって「戦略ループ」という手法で戦略を説明します。ループ図の読み方については、以下の記事を参照ください。

まずは紳士服専門小売業者の話から。

AOKIをはじめとする、紳士服専門小売は、スーツをたくさん作って、たくさん売ることに特化してきました。

生産活動においても同様。スーツを開発し、原料を仕入れて、ハイシーズンでも欠品しないように生産プロセスを最適化しています。

だからスーツでしっかり利益が出る。成長の拡張ループ(下図、青色矢印)です。

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しかしコロナ禍で状況が一変してしまいました。

リモートワークが推進(上図、赤枠)され、スーツを着て外に出かける機会が激減。それに伴い、スーツの販売量も減りました(上図、赤色点線)。

さらに追い討ちをかけるように、入社式などのフォーマルイベントの中止や、就職活動のリモート化なども進み、スーツを買う機会もタイミングも減りました。

この影響は大きく、AOKIホールディングス全体では、直近期の売上高は2019年比で26%減の1431億円。金額では約500億円の売上ダウンです。

とはいえ「1431億円も売上があるなら大丈夫なんじゃないの?」と思う人もいるはず。

しかし経常利益で見ると、66億円のマイナスになっています。

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そんなリモートワーク中心の生活様式で、新たにAOKIが打ち出したのが「パジャマスーツ」でした。

https://www.aoki-style.com/feature/pajamasuit/

こちらがそこそこのヒットを打ったことで、戦略の中心にすえるぞ!というのが今回のニュースというわけです。

しかし、諸手を挙げて簡単にというわけにはいきません。

戦略上の問題になるのは、これまで構築した「スーツの生産体制」という経営資源がどこまで活かせるのか?ということ。

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もちろん共有できる資源はあるんでしょうけど、新たな取り組みとしてある程度「カジュアル服の生産体制」への投資が必要です。

しかも、現状は利益が出ていないから、原資は内部留保と借入金になるでしょう(上図、緑色矢印)。

ちなみにAOKIの昨年度の借入額は約200億円。

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https://ir.aoki-hd.co.jp/ja/ir/finance/indicator.html

もちろん全額がパジャマスーツに使われたわけじゃないと思います。

ほとんどが固定費の支払いかも。ちなみに昨年は店舗数は減らさず、むしろ増やして1299店舗に。

ということで、結局、AOKIの戦略ループは良いのか?悪いのか?

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前述したように、生産体制については、これまでの経営資源をどこまで使えるか鍵でしょう。

スーツの生産資産をたくさん使えるのであれば、負担は少ないでしょう。しかし、共有できる部分が少なければリスクが高い。

あとはスーツのブランドイメージを、どこまでカジュアルウエアに活かせるのか? AOKIと聞いて、ピシッとしたスーツは思い浮かびますが、楽な服は思い浮かびません。

さらにパジャマスーツを買いに行くだけにAOKIに行くというのも、多くの消費者にとって億劫なんじゃないでしょうか。スーツ屋って気軽に入れる気がしませんしね。店員も寄って来ちゃいますし。

…ここまで考えると、なんだか難しそう。これまでのスーツのイメージが強固すぎるような気がします。

今後の動きを見守っていきたいですね。

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ということで、ループ図による戦略図解について興味を持たれた方は、以下の記事も読んでみてください。

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